2024年4月7日日曜日

ラオスのサラサヤンマ探索記(3)The Search for Sarasayanma in Laos (Please view this blog on a computer, garbled text and line shifts will occur).

 Sarasaechna minuta の発生地を発見する

 3月のラオスのトンボは周年発生の種類は別として、特に河川に生息するトンボは一部の異様に早く発生する種以外、まだほとんどが未発生です。ですから環境が素晴らしくとも何も居ません。フォンサバンでのサラサヤンマの生殖活動は源流域の渓流を中心に行われていると思われますが、どこが産卵場所になるか見当もつきません。♂が活動する時間帯に渓流内に降りて待ってはみましたが姿をみることはかないませんでした。トンボはタイワンカワトンボがいるだけで、他は何も居ませんでした。      
 私たちは数日後フォンサバンを離れ、東に50km のマンカム(バンバン)に移動しました。この町は北に位置するサムヌアへの分岐点となっていて、東はベトナムへと続いています。標高は600mほどで、高原のフォンサバンに比較してかなり暑く感じました。
                    
                     夕暮れのマンカムの街並み
                     
                     サムヌア方面への道

 このマンカム周辺でサラサヤンマを狙うこととしました。最後にここを訪れたのはもう15年も前の事となります。当時の断片的な記憶をたどり、目星を付けた山間の湿地を目指しました。目的地は山間に広がる大きな谷間で、多くの池沼や湿地が点在しています。特に山際の湿地は灌木がまばらに生えて、日陰も多くまさに本種の発生地にはピッタリです。

                     
                  環境の良い池と明るい湿地

 しかし、ここで散々粘ったのですが、サラサヤンマを見ることはできませんでした。日本や台湾なら居そうなんですが。しょうがないので、この地をあきらめて引き返し始めた時、谷間を流れる細い流れが目に入りました。周囲は水田と湿地になっていて、川のながれに沿って樹林が川を覆う様にうねうねと続いています。道から降りてゆくと、意外に樹林帯に奥行があって環境が良く、5月上旬にはいろいろな種類のトンボが見れるかもしれないと思っていたら、ラオスの友人がいきなり私を呼びました。彼は川を飛び越えて、樹林の林床の中に居ました。盛んに手招きしています。
                   
                     流れと林床

何かトンボがいるようです。「いいから採れ、採れ」というと、いきなり地面に網をかぶせました。何だ何だと駆けつけると手にしていたのは、予想だにしていなかったサラサヤンマの♀でした。アカトンボぐらいの大きさしかありません。林床の薄暗い陽の光の中で、サラサの♀は浅黄色の胸部と、そして鮮やかな黄色の斑紋の腹部といった今まで見たことのない妖しい美しさを纏っていました。その美しさに一同、声が出ませんでした。
                      
              サラサの♀が産卵飛翔する林床部(かなりぬかるんでいる)
                     
                  ♂が飛ぶ空き地、手前が流れ

 時間は12時前、こんなところが発生地だったとは。そのうちとしちゃんが♂を採ったと連絡が来ました。何処で採ったの!と。そこは流れの脇の上空が開いた小さな空き地でした。
 この空き地の先は芝のような草地が20×30mほどの広がっていて、牛が陽の光を浴びて草を食んでいました。何気なくタバコを吸いに明るい草地にでたところ、瞬時にサラサが目の前をホバリングしているのを見つけました。いやいや、これは小さい。すぐにどこに行ったか見失います。急いでM氏やとしちゃんを呼びました。いよいよM氏の本領発揮となるカメラの出番です。
                  
                     
                     
             Sarasaechna minuta ? 上2枚 T. Miyahata 撮影, 23/03/2024 

 現れたサラサヤンマはもちろん種名(後日 S. minuta に近い種とわかりました)など分からなかったのですが、やはりフォンサバンで見たのと同じくらい小さい。日本のサラサヤンマよりすばしっこく、ホバリングの時間は非常に短いように思いました。ファインダーに収めることが困難です。ただかなり長く飛翔しており、フォンサバンで見たようにすぐに止まることはしません。この個体はしばらく我々を楽しませてから飛び去りました。
 この直後、またラオスの友人が手招きしています。今度は何?そばに行くと、サラサが産卵しているようです。彼は流れの脇の蔓性植物や枝が覆いかぶさった薄暗い幅1.5m、高さ50cmほどのトンネル状になった藪を指さしています。良く見ると、ああ、いるいる。♀が産卵しています。地面には枯れ枝や、枯葉が一面に落ちていて地面が露出しているところは殆どありません。産卵管を突き刺してはちょっと飛んで、同じような行動を繰り返します。地面はややぬかるんでいますが、湿地という感じではありません。早速、M氏が駆け付けました。まさに氏のために用意された舞台に主演女優が登場したようなものです。
                      
                 赤丸内が産卵場所(流れから3m)

                 産卵個体にそーっと近づくM氏とラオスの友人
 
                   こんなにきれいなサラサの♀見たことある? S. minuta, T. Miyahata 撮影, 22/03/2024

 この産卵場所にはここを離れるまで計4回、♀が同じように産卵に訪れました。この♀はオスがすぐそばの開けた草地で縄張り飛翔することから、S. minuta ではないかと考えています。その後同じ場所で採集した♀は写真に示したような胸部が浅黄色ではなく、淡い黄色だったので、あるいは成熟すると浅黄色に変化するのかも知れません。
              採集した♀、目の色がやや未熟なので、若い個体だと思う

 産卵はいずれも昼前後から観察され、13:00頃が多かった印象があります。
 この生息地には実はもう1種いることが分かりました。フォンサバンで見た2種のうちBに当たるサラサヤンマです。このサラサヤンマはS.minuta が見られる場所では観察できず、さらに上流で見られました。何となく棲み分けしているのかな、とも思われます。フォンサバンの場合と同じく、流れに近い、ブッシュに囲まれた狭い空き地をホバリングを交え、せわしく飛び、すぐ植物にぶら下がって休息します。現れる時間は決まって昼前後から13:30ぐらいで、その前後は全く見ることができません。また日が射さないと出てきません。真昼ですからかなりの日射量となって私たちには暑く、厳しい条件となります。
 一度だけ多分この種類の♀だと思うのですが、林床を産卵箇所を探すようにホバリングを交えゆっくりと地表すれすれに飛ぶ姿を確認しましたが、慌てて動いたため、飛び去ってしましました。
                    
               流れから緩やかな斜面が空き地(Bの♂が飛ぶ)に続く

              ♀が産卵飛翔した斜面の状況、かなり湿った感じ。
 
 B のサラサヤンマがこの地にいて、それらしい♀(確証はありませんが)が S. minuta と同じような林床に産卵飛翔したことからやはり、今回発見したフォンサバンの AB は当初予想したとおり樹林に囲まれた渓流や、小河川あるいは細流に住み、その湿った林床に産卵するということに間違いないと思われます。また同時に、この3月には明るい開放的な湿地に住むようなサラサヤンマはこの地域にはいない可能性が高いと考えられました。
 以下にM氏が撮ったサラサヤンマを上げたいと思います。インドシナ半島産のサラサでこれほど鮮明に撮影されたものは無かったと思います。
                    
            フォンサバンのサラサヤンマ B?, T. Miyahata 撮影, 26/03/2024
                                                                               
                                                                      同
                        
                         同
                         
                  このサラサヤンマは良く止まる。地上10cmぐらいの高さ   































 

  
















2024年4月6日土曜日

ラオスのサラサヤンマ探索記(2)

  フォンサバン産のサラサは2種あるか?
 前のページでも触れたように、同一生息地で得られたサラサヤンマは何となく2種混じっているような気がしてなりません。はたしてどうか?帰国してから詳細に見てみることにしました。
 帰国後のバタバタがひとまず区切りがついたので、まず尾部付属器を見てみました。今回得られたサラサヤンマの上付属器は明らかに形状が異なり、Aは細長いのに対してBはへら状に幅広で先端が丸まる。一方、下部付属器は一見、良く似ているが、良ーくと見ると基部の幅や二股に分岐する先端部のV字の角度などが異なっていることが分かります。イメージ的にはABに対して細長い。一方斑紋は若干Bの個体が腹部側面の斑紋が大きく見えます。しかしそのほかに目立った斑紋の相違点は認められませんでした。
 亡くなった友人のサラサの標本を改めて調べてみるとやはりこの2(A,B)が含まれていていることが分かりました。ペニスについては標本を軟化しなくてはならないので、今回は割愛します。主に尾部付属器の違いで、両者は容易に識別できました。これら2種を他の既知種と比較すると、下図のように該当するものがないことから、たぶん新種だと判断されます。この結果、ラオスからは2種の新種(だとして)とminuta およびyoshitomii の4種が記録されたことになります。
     
                        
 A                    B                     A                    B
   
                           A                                                        B
                     
                  A, B いずれもシェンクワン県フォンサバン近郊の同一産地

 インドシナ半島部から知られるサラサヤンマ属全種の尾部付属器の比較(簡単なスケッチでスケールはいい加減です。)です。gaofengensis を除いて記載図から作画してます。今のところ、各種はその尾部付属器の形で、しかも上付属器背面から図のみで区別できることが分かります。
                    

















2024年4月2日火曜日

ラオスのサラサヤンマ探索記(1)

 2020年12月に、それまで一緒にラオスのトンボを調査してきたラオスの大切な友人を失いました。失意の下にあった私にある日、友人の奥さんから1個の大きな小包が送られて来ました。それは過去に彼が採りためていた採集品でした。 
   この中には多くの興味深い種が含まれていました。そしてこれまで全く採集できなかったサラサヤンマを複数その中に見出したのです。日付は12-25/03/98とあり、産地はシェンクワン県フォンサバン近郊でした。居てもたってもすぐに駆け付けたかったのですが、その後のコロナでラオスには渡ることができませんでした。そこで現地の知人に頼んでサラサヤンマを探してもらっていましたが、昨年、幸運にも亡くなった友人が採集した地点とほどんど変わらない場所で新たな♂を複数採集することに成功したのです(前項)。
                     
       ラオスの行程図:行きはVientianeからBコースでPhonsavanへ. 帰りはAコース

 そして本年、3月にサラサヤンマを求め、いつものM氏、としちゃんと私で前年、ラオスの友人が確認した場所に行くことになったのです。目的地はラオス中部シェンクワン県の県都フォンサバンです。
 通常ここへ行くには、車で首都のビエンチャンから国道13号を南下して2時間弱のシェンクワンへの分岐点パクサンに向かいます。ここからフォンサバンまでは約4時間強かかります。そんなことから今回も途中、採集しながら行っても夕方にはホテルに着くと気楽に思っていました。ところが今回パクサンからの道が曲者でした。中国の大型トレラーが昼夜を問わずこの道をひっきりなしに走行していて(その台数は数百台になると思います。何を運んでいるのか?)、この中国の大型トレーラーの走行で、もともと良いとは言えなかった道がさらに掘れて数メートルおきに大きな穴が開いていています。坂ではカーブの部分がどうやったらこんなに深いわだちが出来るのかと思うほど大きくえぐれ、はまったら出られなくなりそうでした。車高の低い車では走破は苦しいでしょう。まして降雨があれば、通行はどんな車も出来ないでしょう。すぐに補修工事を行えば済むことだと思いますが、主要幹線にも関わらず全区間全く放置されています。多分ラオス政府には補修にかけるお金が無いのだと思います。コロナ騒ぎで、最大の収入源の観光収入が途絶えたことや中国からの莫大な借款の発生、いわゆる債務の罠というやつですね。これらが大幅な収入減の原因になっているのだと思います。
 結局、朝ビエンチャンを出発して最終的にフォンサバンに疲労困憊で到着したのは以前の倍近く、10時間もかかってしまいました。フォンサバンはラオス中部の要衝で、コロナ以前は、ラオス経済の急激な発展ぶりを象徴するような活気のある町でした。ところが今回、町は人通りも少なく、商店街はシャッタ―を下ろしたお店が多く、明らかに状況が変わっていました。中国経済の停滞はその依存度が高いラオスの国内経済のさらなる凋落につながっていくのではと危惧します。
                    
                     閑散としたフォンサバン街中
                         
              しかし、庶民の生活を支える市場の賑わいはいつもと変わらない

 翌日、友人の案内で、いよいよサラサヤンマの生息地に向かいます。天気も良く晴れてこの上なく気持ちが高揚して来ます。どんな環境にいるのか、確実に発生しているのかとか、次々に興味と不安が交互にわいてきます。発生地はフォンサバンから1時間ほどの山間の村で、友人の家に車を止めてそこから歩いて発生地に向かいます。
                     
                      準備を整え、いざ、出陣!
                          
                     発生地はこの川の上流にあるという
                          
              川の両側が畑になっていて、手前はブロッコリーで対岸が何とイチゴ

川はだんだん上流の雰囲気になってきました

今度は川から離れ延々と山道です. 暑じー!まだですかー?

 村はずれから、田んぼの畦を伝って川沿いを上流の発生地を目指します。事前に把握していた場所は1kmぐらいですから10分ぐらいで着くものと予想していました。しかし、案内してくれる友人はどんどん先に進みます。あれ、おかしいなあ、と思いつつ付いていきます。炎天下の中のアップダウンは日頃の運動不足が祟って早くもギブアップです。まだ先あんのー?と。歩くこと1時間以上。ようやく友人がここだと指さしました。勇んでその場を見ると、「え!」水気など全くない、ただの草原じゃない!どう見ても湿地ではありません。最近、かなり生えていたと思われる灌木類や丈の高いイネ科植物を刈り倒したようです。こんなとこ本当に飛ぶのかい?一気に期待から絶望に心がしおれていくのを感じました。
 もう一度友人を呼んで、採集時の話を聞きました。現在時刻は10時、飛ぶポイントがあって、案内すると言います。発生地?の草原はかつて水田であったことは間違いないようで、田越用水を行っていた跡が見られました。ということは以前は水田であったが放棄され、湿地になったところに本種が進出した。現在は乾燥が進んでこの場所からは姿を消すまさにその瞬間が昨年であって、今年はこのカラカラの元水田跡からは発生はしないのではないか。
 彼についてゆくと、草地の脇に細い渓流(といっても高低差が大きいものではない)が樹林の中を流れています(もうここは源流地帯です)。彼が飛ぶという場所は全て渓流の脇に広がる草地で、しいて言うなら周囲を灌木や背の高いイネ科植物に囲まれていたり、ややくぼ地であったりする特長がありました。この場所の周囲に湿地らしい場所は1つもありませんでした。

         サラサヤンマが飛ぶ乾いた草原(生えていた灌木や草が刈り倒されている)
                     
            ややくぼ地になった場所、わきを渓流が流れる
                    
             この場所も飛ぶそうだ。ほんとかい?左側は渓流

 案内されればされるほど、ますます絶対にこんな所は飛ばないという確信みたいなものが出てきて、また失敗に終わるのかと悲観的になっていきました。友人がとにかく昼飯にしようということなので、湿地?入口の木立のなかで昼食にすることにしました。
 改めて友人に聞きます。昨年採集した時、ここは湿地だったのかと。彼の答えは明快でした。昨年と同じである。周りの水田もまだ水を入れてない。送った写真は9月に撮ったものだ。トンボは15時に採集した。それまでは見ていないという。さすがに落胆する私の顔を見て友人は、責任を感じたのか、食事を済ますとすぐに草地の奥に網をもって出かけて行きました。そのころには私は、サラサはここで偶然採集されたもので発生地は別にあると完全に信ずるに至っていました。そして今後の日程をいかに消化するか、経費はどうなるかを悶々と考えていました。
 13時近く、友人たちが遠くで声を上げるのが聞こえました。しばらくすると友人たちがニコニコしながらやってきました。そしてその三角紙にはこれはこれは綺麗なサラサヤンマが収まっていました。「ほんとに居たのかい?」サラサヤンマを手にしてもまだ、私はそう呟いていました。夢をみているような不思議な気持ちでした。
                     
                                             初めてみた♂、すばしっこく飛び回るのでなかなか撮れない
 
 とにかく日本では考えられないような環境にサラサヤンマが飛ぶことは間違いないようです。その証拠に13時を過ぎたあたりから、いわゆるポイントに次々と飛来するようになりました。いずれも♂のみで、飛翔自体は日本のサラサヤンマと変わることはありませんが、ホバリングする範囲はせいぜい2,3m四方と狭く、さらにホバリング継続時間は短く、すぐに地上から10cm程度の植物の茎に止まりました。一回のテリトリー飛翔時間は3,4分から20分とかなり個体によって異なりました。体が小さく、すぐに見失います。なぜこのような場所を飛ぶのか分かりませんが明らかにミクロ的な指向性が存在し、1頭採集するとすぐにまた1頭が入って来るといった具合です。飛来する個体すべてを見たわけではありませんが、鬱蒼と木々に囲まれた渓流から飛び出してくる♂を複数確認しました。
                    
  なかなかホバリングしてくれず、遠目からわずかな枚数しか撮れなかった
 
 この生息地には3回通うこととなりましたが、結局♀は1頭も見ませんでした。また、成熟が進むと、体色が変化することや、飛び始める時間が早くなることも分かりました。わずか1週間の期間内のことですから発生期全般のことは予想もつきません。この時期は昼前後から15時ぐらいに飛翔が観察されるようです。どうも渓流内の湿地に産卵している可能性があると思われました。この点はオキナワサラサなんかに似ているのかなと。
 今回捕えたサラサヤンマを良く観察すると何やら2種類混じっている可能性があることに気が付きました。これに関しては別項で述べていきたいと思います。
                   














 











2024年2月25日日曜日

Laos の Devadatta 属(2)(パソコンでご覧ください。文字化け、行ずれが起きます)

argyoides グループ

 Devadatta 属の中では最もポピュラー(もちろんほとんど得られていない種も多い)な形態をしている種群で、主にボルネオ島~インドシナ半島南部に分布しています。頭部の後頭楯は金属光沢を呈することが多く、体色はダークブラウン~黒、胸部側面に明瞭な細い筋状の淡いラインが第1、2側縫線上に明瞭に現れます。腹部の3~7節には明瞭な明るい茶色の斑紋が見られ、翅の先端はつま黒になる特徴があります。                                      

                                       Devadatta cyanocephala ラオス中部 Thatom 産

 ラオスでこのグループに属するものはラオス中部~南部から記録されている cyanocephala 1 種のみが記録されています。このほかに Devadatta 属(1)のページで触れたとおり multinervosa も属する可能性があるかも知れません(この辺の判断はむずかしいですね。タイプの写真から第3腹節背面に淡い斑紋らしいものが認められることから、もしかするとこれは別属かも?)。
 このグループも生息地は低山地~山岳地域の細く勾配のきつい沢に見られ、薄暗い谷合の突き出た樹木の枝先に止まっているのが観察されます。決して植物の葉には止まらないようです。
 
3 glaucinotata グループ

 最後に glaucinotata グループです。特徴は前のブログページに書いてありますので、割愛します。D. glaucinotata はラオス中部、今では欧米人に人気がある観光地であるVangvieng(バンビエン)から国道13号を更に30分ほど車で北に行ったPatang(バタン)付近から得られています。国道13号から Nam Song(ソン川)に沿にそって脇道を進みますと、いくつかの沢と交差します。標高は350~400m であまり高くはありませんが、多くの珍しいトンボがそれぞれの沢に見られました。この流域ではこの glaucinotata の他に、これも非常にめずらしいハナダカトンボの仲間、Rhinocypha peitho(これまでに Patang でタイプの1♂、中部ラオスの2地点からそれぞれ1♂ と1♀しか得られていない)が採れています。
 glaucinotata とは別に、異なる2種が中東部のアンナン山脈西麓から得られていて、その胸部の特徴ある斑紋からこのグループに属すると考えられます。 
                    
               Devadatta
spラオス中部 Thatom 産

               
Devadatta spラオス中部 Mok 産 

 Thatom 産の個体はやや若く、採集した時は胸部の色が鮮やかなライトブルーをしていて、とてもこれがあの地味な Devadatta とは思えないほどでした。しかし、標本にするとたちまち灰色に変化してしまいました。成熟すると胸部は青灰色に変化していくのかも知れません。
 一方、Mok 産は当初、glaucinotata だと思っていましたが、後日、改めて見てみると、胸部斑紋や尾部付属器の形がかなり異なることから別種であることの可能性が高いと思います。しかし、いずれも1個体しか得られていないため、さらに標本が集まらないと明確なことは言えません。
 
 ベトナムとは違って、cyanocephala を除くと、ラオスでのこの種のトンボを採集できる機会はほとんどありません。そして不思議なことに、なぜかほとんど単独でしか巡り合うことが出来ていません。近年の猛烈な開発はラオスも例外ではなく、中国雲南省の省都昆明からビエンチャンまで開通した高速鉄道の建設で、Patang 周辺の環境は完全に変わってしまい、昔の面影は現在ありませんでした。
 種の多様性条約締結後、それぞれの国々での昆虫採集は厳しくなる一方で、何が居るのか分からないうちに生息地そのものが大規模開発で失われることは、何ともやりきれない気持ちになります。

 








 
 

 

                      

                    
 


        


     

2023年11月28日火曜日

Laos の Devadatta 属(1)

  Devadattidae 科は1属13種から成る東南アジア特産の非常に興味深いトンボです。これまでは Amphipterygidae (ムカシカワトンボ)科に含まれていましたが、最近、Dijkstra et al.( 2014)が、Devadatta 属のミトコンドリアおよび核 DNA を解析したところ、Amphipterygidae 科と異なることを見出したため、新たに Devadattidae 科を起こし、そこへ Devadatta 属を移した経緯があります。
 Devadatta 属の各種をみてみると大まかにargyoides 、ducatrix および glaucinotata の3つのグループに分けることができます。
 argyoides グループはインドシナ半島、東南アジア島嶼域に広く分布し、特にボルネオ島を主に全部で9種が知られています。体色は胸部と腹部が黒および褐色、各腹節に明るい茶色の環状紋を呈する特徴があります。
 これに対してducatrix グループはベトナムとラオスのみから3種が知られています。それぞれの胸部、腹部とも黒色で、♂の腹部各節に環状紋は殆ど見られず、♀にわずかにやや青みがかった白い斑紋が痕跡程度に認められます。翅のつま黒は他のグループの種よりも、より明瞭で面積が大きくなります。
 最後の glaucinotata グループは今のところラオス特産種の(他に2種未記載種があります)から成ります。このグループの特徴は胸部は黒、側面の大部分が青白色~明るい灰色であることです。腹部は黒で環状紋はなく、各節基部側面に消失ぎみに小さな灰色の斑紋を持ちます。

 DEVADATTIDAE

Devadatta Kirby, 1890

Devadatta aran Dow, Hämäläinen & Stokvis, 2015          Borneo       

Devadatta argyoides (Selys, 1859)               Hongkong, Indonesia, Singapore, Thai

          Tetranevra argyoides Selys, 1859

          Syn Devadatta argyoides tiomanensis Laidlaw, 1934

Devadatta basilanensis Laidlaw, 1934                            Philippines

    Syn Devadatta filipina Needham & Gyger, 1939

Devadatta clavicauda Dow, Hämäläinen & Stokvis, 2015   Borneo 

Devadatta cyanocephala Hämäläinen, Sasamoto & Karube, 2006   Laos, Vietnam

Devadatta ducatrix Lieftinck, 1969                                 Vietnam

Devadatta glaucinotata Sasamoto, 2003                         Laos       

Devadatta kompieri Phan, Sasamoto & Hayashi, 2015      Vietnam

Devadatta multinervosa Fraser, 1933                              Laos

Devadatta podolestoides Laidlaw, 1934                           Brunei, Indonesia, Malaysia

Devadatta somoh Dow, Hämäläinen & Stokvis, 2015       Borneo

Devadatta tanduk Dow, Hämäläinen & Stokvis, 2015       Borneo

Devadatta yokoii Phan, Sasamoto & Hayashi, 2015   Laos

 多くの種の生息地は薄暗い源流域に限られており、ラオスではなかなか目にする機会がありません。それでも現在まで 4種(上の一覧中の赤)が知られています。このうち D.  multinervosa は、Fraser が記載に用いた未熟の♂しか知られておらず、実体は良く分かりません、大英博物館のライブラリーにこの標本が公開されていますので(下写真)、それを見ると、記載にあるとおり頭部の上唇、さらには額にかけても青色が認められます(メタリックな感じもしないでも。また腹部側面に明るい斑紋が認められます。記載では胸部の縫合線に沿って明るい筋状の紋も記述されています。さらに採集地の Pu Tat の近くでは cyanocephala が得られていることから、もしかしたら cyanocephala そのものか、あるいはそれに類似した種ではないかと推察されます。



Devadatta multinervosa Fraser, 1933 Holotype
British museum natural history type specimen collection より

 最初にducatrix グループ内の3種について、Phan et al. (2015) の記載を基に識別していきたいと思います。この中の D. yokoii は1998 年に、ラオス中部のVangvieng 近くの渓流で筆者が採集した標本を基に記載されました。
 当時のVangvieng はまだ電気も来ておらず、街並みもまだベトナム戦争時代に作られたアメリカ軍の航空基地の滑走路に沿ってつくられていていました。当然周辺にはアメリカ軍に協力していたモン族の人たちがまだ多く住んでいて、一部が政府に対してゲリラ闘争をしばしば起こしていました。私が通った渓流には街はずれの国道13号線の橋から、川沿いの小道を入っていくのですが、この橋の下は砂地で浅く、ヤゴの採集に打って付けの場所で、周辺の子供たちも手伝ってくれてヤゴ採りをしたこともありました。ある年、私たちが訪れた翌月、路線バスがこの橋の上でゲリラの襲撃にあい、多くの乗客とサイクリング中の複数の欧米人が命を落としました。さらに同時期に同じ川で、自動小銃で武装した10人ぐらいの集団にバッタリ鉢合わせしたことがって、一見してゲリラだと分かりました。彼らは政府軍の服装はしておらず、農民のような服装でサンダル履きの人もいました。なりより全員アメリカ軍のM16自動小銃を携行していたからです。まあ、これ以後のことをここで書くわけにはいきませんが、当時は結構危なかった情勢だったのです。

 1 ducatrix グループ
                   
                    Devadatta yokoii  Vang Vieng 産



     ducatrix グループ3種の違い
       翅形の比較
      
          
       尾部付属器の比較

                                                                                   Phan et al. (2015) より


 個々に違いを述べていては分かりずらくなるので、表にまとめました。尾部付属器の違いは上の図のとおり、それぞれ明瞭ですが、現場での識別点となるとかなり難しいように思います。翅のつま黒の大きさや、縁紋の大きさで大体識別が可能とは思いますが、どうしても尾部付属器の違いで確かめたいなら、倍率の大きなルーペは必携だと思います。
 現在ラオスからはD. yokoii のみが記録されていますが、調査がほとんどされていないベトナム国境付近のアンナン山脈西麓部、特に北部地域からは他の2種、あるいはさらなる種が記録されるかもしれません。
   D. yokoii の生態は全く分かっていません。採集した個体は暗く日が射しこまない狭い渓流脇から突き出た枯れ枝に止まっていて、近づいても飛び立つ気配はありませんでした。流れが小さな段差になった場所に朽ちた倒木があって、その周辺のみに数個体(♂)が見られたので、こうした倒木に♀が産卵に来るのかもしれません。

  
つづく














































































2023年6月26日月曜日

ラオスのサラサヤンマ  Genus Sarasaeschna of Laos

現在までのラオスの Sarasaeschna 属

 ラオスのSarasaeschna 属 は S. minuta と最近ラオスから新種記載された S. yoshitomii の2種が知られています。前者はこの属ではというより、世界で最も小さなヤンマだと思います。腹長 30mm、後翅長 28mmしかなく、アキアカネとほぼ同じ大きさしかありません。このトンボはタイから記載されていて、その後公な追加記録が無い珍種となっており(最近ベトナムから記録された。Kiyoshi ら、2016)、ラオスからは1♂が1. Ⅳ. 1995 に観光地で有名な Vang Vieng から、さらに100kmはなれた Xieng Kwang から1♀が 29. Ⅲ. 1993 に共に現地の方によって採集されています (Karubeら、2001)。

 一方、後者は ラオス中部の高所 Phou Samsoum 周辺から2011 と2013年のそれぞれ5月中下旬に得られた11頭を基に新種記載されました (Kiyoshi ら、2016)。このサラサヤンマも非常に小型で、個体差があるようですが、最小だと腹長 34mm、後翅長 30mm程度しかありません。

時期的に得難いヤンマ                                      
 私はこれまでラオスでこのトンボを採集したことはおろか、目撃したこともほとんどありません。惜しむらくは1997年にXieng Kwang 東部の温泉地で1♂を採り逃がした経験があるのみです。ただ、このヤンマ、多くの採集記録を見ると出現期は3月中旬から4月初頭と5月下旬から6月上旬に集中していることが分かります。すなわち、海外に長期に採集に行ける4月下旬~5月頭のゴールデンウイークでは丁度発生期を避けて採集に行っているようなもので、そもそも採集できる機会は極めて低かったようです。
 現在のこの属を達観してみます。

Sarasaeschna Karube & Yeh, 2001

1. Sarasaeschna chiangchinlii Chen & Yeh, 2014     Taiwan       

2. Sarasaeschna decorata (Lieftinck, 1968)     India

          Oligoaeschna decorata Lieftinck, 1968

3. Sarasaeschna gaofengensis Yeh & Kiyoshi, 2015    China

4. Sarasaeschna kaoi Yeh, Lee & Wong, 2015     Taiwan

5. Sarasaeschna khasiana (Lieftinck, 1968)     India

          Oligoaeschna khasiana Lieftinck, 1968

6. Sarasaeschna kunigamiensis (Ishida, 1972)     Japan

          Jagoria kunigamiensis Ishida, 1972

7. Sarasaeschna lieni (Yeh & Chen, 2000)     Taiwan

          Oligoaeschna lieni Yeh & Chen, 2000

8. Sarasaeschna martini (Laidlaw, 1921)     India

          Jagoria martini Laidlaw, 1921

          Syn Aeshna nigripes Navás, 1932

9. Sarasaeschna minuta (Asahina, 1986)     Thai, Laos, Vietnam

          Oligoaeschna minuta Asahina, 1986

10 Sarasaeschna niisatoi (Karube, 1998)     Vietnam

          Oligoaeschna niisatoi Karube, 1998

11. Sarasaeschna pramoti (Yeh, 2000)     Thai              

          Oligoaeschna pramoti Yeh, 2000

12. Sarasaeschna pryeri (Martin, 1909)     Japan

          Jagoria pryeri Martin, 1909

13. Sarasaeschna pyanan (Asahina, 1951)     Taiwan

          Oligoaeschna pyanan Asahina, 1951

14. Sarasaeschna sabre (Wilson & Reels, 2001)     China

          Oligoaeschna sabre Wilson & Reels, 2001

15. Sarasaeschna speciosa (Karube, 1998)     India

          Oligoaeschna speciosa Karube, 1998                                         

16. Sarasaeschna tsaopiensis (Yeh & Chen, 2000)     Taiwan

          Oligoaeschna tsaopiensis Yeh & Chen, 2000                    

17. Sarasaeschna yoshitomii Kiyoshi, Katatani, Kompier & Yeh, 2016     Laos   

18. Sarasaeschna zhuae Xu, 2008     China

 18種もあるのですね。台湾には5種もいて、目と鼻の先の西表島になぜ居ないのでしょう?他のトンボは大体いるのに不思議です。もしかしたら標高が少し足りないのかも知れません。台湾のサラサは皆1000m以上の高所ですから。

 この18種を見てみると、少しおもしろい現象があることに気が付きました。それは記載論文に示されている大きさです。南にいくほど小さくなるのです。試しに数種の腹長と後翅長の関係でグラフを作ってみました。

      Sarasaeschna 属各種における腹長と後翅長の関係

 ゴチャゴヤして見にくいのですが、緯度の高い地域ほど大型になって、低いほど小型になってますよね。まるでベルクマンの法則に合致する例のようです。もっとも、この法則は恒温動物のみに当てはまる法則ですが😢。

  このグラフの S. sp. は今年3月下旬に Xieng kwang 北部で得られたサラサヤンマで、他種とは明瞭に区別される種です。この種も小さく、比較のためにアキアカネと並べた写真を上げます。生息地は標高1300mの森林に囲まれた広さ50×50mほどの草丈がある草が生い茂った湿地で、個体数は多かったようです(現地の友人による)。同じシェンクワン県から得られた S. yoshitomii に比較すると、尾部付属器の違いはもちろんですが、全体にやや黒化して、腹部側の黄色の斑紋が不明瞭のようです。また、顔面の色や翅脈も一部異なります。記載にはもう少しサンプルと、なによりメスを得たいと思います(産卵を確認)。 
                    
                 Phou Samsoum の Syoshitomii 生息地景観 2023. 6. 19
                    
                
アキアカネとラオス産の Sarasaeschna sp.
                                                      

                                            最近ラオス北部から得られた上の写真と同じサラサヤンマの1種

 これまで数えきれないほどの湿地をラオスで見てきましたが、サラサヤンマの発生時期に調査をすることはありませんでした。来期は発生時期に照準を当てて、本種の分布を調べていきたいと思います。

Two Sarasaeschna species, minuta and yoshitomii, have been recorded from Laos. All of them are obtained from mountainous areas above 1000m and are very small species. The genus Sarasaeschna consists of 18 species, which are larger at higher latitudes and smaller at lower latitudes. This year, we obtained multiple Sarasaeschna sp. It did not match any known species and was a very small species. This dragonfly appears from mid-March.

引用文献

Karube Haruki & Wen-Chi Yeh. 2001. Sarasaeschna gen. nov., with descriptions of female S. minuta (Asahina) and male penile structures of Linaeschna (Anisoptera: Aeshnidae). Tombo 43(1–4): 1–8.

Takuya Kiyoshi, Naoji Katatani, Tom Kompier and Wen-Chi Yeh. 2016. A new species and additional Records of the Genus Sarasaeschna from Laos and Vietnam (Odonata, Anisoptera, Aeshnidae). Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, 42(4): 181-188.









No way I'm catching any dragonflies in this dark! 「ラクサオ Stylurus amicusの巻」

  インドシナ半島での Stylurus 属はベトナムから知られている程度であったのかなと思います。すでにベトナムからは S . clathratus が報告されていて、この他にも1種の不明種が記録されているようです。Tom Kompier 氏によれば 最近  Stylur...