インドシナ半島での Stylurus 属はベトナムから知られている程度であったのかなと思います。すでにベトナムからは S. clathratus が報告されていて、この他にも1種の不明種が記録されているようです。Tom Kompier 氏によれば 最近 Stylurus amicus がベトナム北部の2つの河川から得られたとしています。
2025 年の 5月私たちは南ラオスでの調査から帰る途中に、ラクサオに寄りました。目的は Boyeria karubei を写真に撮るためでした。日中、生息を予想する Nam Phao の支流を偵察して、付近のトンボを調べました。この一帯は年ごとに開発が進み、見つけた適地が翌年は林道が通って消失してしまうことが度々ありました。本来ならベトナム国境付近まで登って、付近にある細流を調べたかったのですが、国境の通関がバカみたいに時間がかかっているらしく、大型トレーラーの列が延々と数キロに渡って続いており、車で何時間かかるか分かりませんでしたので、あきらめて下流で夕刻までの数時間、思い思いに写真を撮ったり、ヤゴを掬ったりして時間をつぶしました。
この時期、サナエ類の羽化が最盛期で、川岸の水草や流木、川岸の砂の上などに無数のヤゴの羽化殻 が見られました。また羽化中の Phaenandrogomphus tonkinicus , Lamelligomphus sp. , Leptogomphus sp. さらに Stylogomphus sp. などが午後遅いにもかかわらず見られました。また、近くの支流ではMacromia moorei が川岸に沿って数mを往復飛翔していました。
この時私はてっきり moorei だと思っていて、盛んにシャターを切っていた宮畑さんに、「それ、 moorei ですよ!」などと余計なことを言ってしまいました。後で、友人のミーさんがこれ採ったけど、moorei と違うんじゃね?と声をかけてきました。よく見るとM. clio 系の個体であることが分かって、びっくりしました。もしかしてと思い、宮畑さんのところに行ったところ、moorei じゃなくてタイワンコヤマの仲間だったよと言われてしまいました。はずかしーや!
いよいよ18時を回って薄暗くなってきました。目を皿のようにして川岸を注視しました。しかしいくら待っても全く何も飛びませんでした。がっかりして川岸に腰を下ろし、宮畑さんとミーさんとこんなに暗くなっても飛ばないなら、ここには居ないのだ。待っていてもしょうがないから引き上げようと、腰をあげた時でした。まだ本流の中ほどにいたT君が、大声で、「何か、メチャ飛んでますーう!」と叫びました。ただ事ではない様子で、フラッシュの閃光がたて続けに当たりを照らします。何がいるんだー!と叫んでも、分かりませーんの返事。急いで駆けつけると、黒々する水面が空の部分にかかったところだけ白く反射して、川面を飛ぶ何かを映し出します。確かに何かトンボが飛んでいる!結構すばしっこくて網を振ることができません。そうこうしているうちに、T君は真っ暗に等しい条件のもとで何とトンボの姿を写し取ることに成功し、さらに1頭を採集までしてのけたのです!そしてそのトンボは何と Stylurus の仲間であることが分かったのです。
こうなると皆目の色が変わり、見えないはずのトンボがか見えるようになってきたから不思議です。そのうちにミーさんが採った!と得意げに獲物を見せに来ました。携帯のライトで照らしてみると、何とラオスで初めてのトビイロヤンマの成虫でした。
宮畑さんのカメラも盛んにフラッシュがたかれます。そしてその成果がこれ!これまた意外や意外。ラクサオでは稀な Nihonogomphus sp. でした。でもまあ。あんな真っ暗な中で良く撮れるものだなあ、と感心してしまいました。
結局、翌日もこのトンボに挑戦しましたが、成果はありませんでした。暗くってこんなの採れねって!どうやって採んだよと、こんな採集は初めてでした。若く目が切れるT君だから何とか採(撮)れたのでしょう。しかし、両日の観察から、この Stylurus は日中は飛ばず、朝は分かりませんが、夕刻、それもかなり暗くなってから川面を低くとびまわることが分かりました。ナゴヤサナエのように中央部をジグザクにやや直線的な飛び方と言うよりは、やや不規則に飛ぶようでした。個体数は結構多く、かなり下流部まで見ることが出来ました。川底は砂地です。水深は膝ぐらいで流速はゆったりと流れるようなナゴヤサナエのそれとほぼ同じだと言えます。
宿舎にかえってから、T君が早速調べてきて、Stylurus amicus だという事が分かりました。もちろんラオスからは初記録です。T君に標本を撮影させてもらいました。ありがとう。それを下に掲載します。
まだまだ何が出るか分からないラオスのトンボでした。