2024年4月2日火曜日

ラオスのサラサヤンマ探索記(1)

 2020年12月に、それまで一緒にラオスのトンボを調査してきたラオスの大切な友人を失いました。失意の下にあった私にある日、友人の奥さんから1個の大きな小包が送られて来ました。それは過去に彼が採りためていた採集品でした。 
   この中には多くの興味深い種が含まれていました。そしてこれまで全く採集できなかったサラサヤンマを複数その中に見出したのです。日付は12-25/03/98とあり、産地はシェンクワン県フォンサバン近郊でした。居てもたってもすぐに駆け付けたかったのですが、その後のコロナでラオスには渡ることができませんでした。そこで現地の知人に頼んでサラサヤンマを探してもらっていましたが、昨年、幸運にも亡くなった友人が採集した地点とほどんど変わらない場所で新たな♂を複数採集することに成功したのです(前項)。
                     
       ラオスの行程図:行きはVientianeからBコースでPhonsavanへ. 帰りはAコース

 そして本年、3月にサラサヤンマを求め、いつものM氏、としちゃんと私で前年、ラオスの友人が確認した場所に行くことになったのです。目的地はラオス中部シェンクワン県の県都フォンサバンです。
 通常ここへ行くには、車で首都のビエンチャンから国道13号を南下して2時間弱のシェンクワンへの分岐点パクサンに向かいます。ここからフォンサバンまでは約4時間強かかります。そんなことから今回も途中、採集しながら行っても夕方にはホテルに着くと気楽に思っていました。ところが今回パクサンからの道が曲者でした。中国の大型トレラーが昼夜を問わずこの道をひっきりなしに走行していて(その台数は数百台になると思います。何を運んでいるのか?)、この中国の大型トレーラーの走行で、もともと良いとは言えなかった道がさらに掘れて数メートルおきに大きな穴が開いていています。坂ではカーブの部分がどうやったらこんなに深いわだちが出来るのかと思うほど大きくえぐれ、はまったら出られなくなりそうでした。車高の低い車では走破は苦しいでしょう。まして降雨があれば、通行はどんな車も出来ないでしょう。すぐに補修工事を行えば済むことだと思いますが、主要幹線にも関わらず全区間全く放置されています。多分ラオス政府には補修にかけるお金が無いのだと思います。コロナ騒ぎで、最大の収入源の観光収入が途絶えたことや中国からの莫大な借款の発生、いわゆる債務の罠というやつですね。これらが大幅な収入減の原因になっているのだと思います。
 結局、朝ビエンチャンを出発して最終的にフォンサバンに疲労困憊で到着したのは以前の倍近く、10時間もかかってしまいました。フォンサバンはラオス中部の要衝で、コロナ以前は、ラオス経済の急激な発展ぶりを象徴するような活気のある町でした。ところが今回、町は人通りも少なく、商店街はシャッタ―を下ろしたお店が多く、明らかに状況が変わっていました。中国経済の停滞はその依存度が高いラオスの国内経済のさらなる凋落につながっていくのではと危惧します。
                    
                     閑散としたフォンサバン街中
                         
              しかし、庶民の生活を支える市場の賑わいはいつもと変わらない

 翌日、友人の案内で、いよいよサラサヤンマの生息地に向かいます。天気も良く晴れてこの上なく気持ちが高揚して来ます。どんな環境にいるのか、確実に発生しているのかとか、次々に興味と不安が交互にわいてきます。発生地はフォンサバンから1時間ほどの山間の村で、友人の家に車を止めてそこから歩いて発生地に向かいます。
                     
                      準備を整え、いざ、出陣!
                          
                     発生地はこの川の上流にあるという
                          
              川の両側が畑になっていて、手前はブロッコリーで対岸が何とイチゴ

川はだんだん上流の雰囲気になってきました

今度は川から離れ延々と山道です. 暑じー!まだですかー?

 村はずれから、田んぼの畦を伝って川沿いを上流の発生地を目指します。事前に把握していた場所は1kmぐらいですから10分ぐらいで着くものと予想していました。しかし、案内してくれる友人はどんどん先に進みます。あれ、おかしいなあ、と思いつつ付いていきます。炎天下の中のアップダウンは日頃の運動不足が祟って早くもギブアップです。まだ先あんのー?と。歩くこと1時間以上。ようやく友人がここだと指さしました。勇んでその場を見ると、「え!」水気など全くない、ただの草原じゃない!どう見ても湿地ではありません。最近、かなり生えていたと思われる灌木類や丈の高いイネ科植物を刈り倒したようです。こんなとこ本当に飛ぶのかい?一気に期待から絶望に心がしおれていくのを感じました。
 もう一度友人を呼んで、採集時の話を聞きました。現在時刻は10時、飛ぶポイントがあって、案内すると言います。発生地?の草原はかつて水田であったことは間違いないようで、田越用水を行っていた跡が見られました。ということは以前は水田であったが放棄され、湿地になったところに本種が進出した。現在は乾燥が進んでこの場所からは姿を消すまさにその瞬間が昨年であって、今年はこのカラカラの元水田跡からは発生はしないのではないか。
 彼についてゆくと、草地の脇に細い渓流(といっても高低差が大きいものではない)が樹林の中を流れています(もうここは源流地帯です)。彼が飛ぶという場所は全て渓流の脇に広がる草地で、しいて言うなら周囲を灌木や背の高いイネ科植物に囲まれていたり、ややくぼ地であったりする特長がありました。この場所の周囲に湿地らしい場所は1つもありませんでした。

         サラサヤンマが飛ぶ乾いた草原(生えていた灌木や草が刈り倒されている)
                     
            ややくぼ地になった場所、わきを渓流が流れる
                    
             この場所も飛ぶそうだ。ほんとかい?左側は渓流

 案内されればされるほど、ますます絶対にこんな所は飛ばないという確信みたいなものが出てきて、また失敗に終わるのかと悲観的になっていきました。友人がとにかく昼飯にしようということなので、湿地?入口の木立のなかで昼食にすることにしました。
 改めて友人に聞きます。昨年採集した時、ここは湿地だったのかと。彼の答えは明快でした。昨年と同じである。周りの水田もまだ水を入れてない。送った写真は9月に撮ったものだ。トンボは15時に採集した。それまでは見ていないという。さすがに落胆する私の顔を見て友人は、責任を感じたのか、食事を済ますとすぐに草地の奥に網をもって出かけて行きました。そのころには私は、サラサはここで偶然採集されたもので発生地は別にあると完全に信ずるに至っていました。そして今後の日程をいかに消化するか、経費はどうなるかを悶々と考えていました。
 13時近く、友人たちが遠くで声を上げるのが聞こえました。しばらくすると友人たちがニコニコしながらやってきました。そしてその三角紙にはこれはこれは綺麗なサラサヤンマが収まっていました。「ほんとに居たのかい?」サラサヤンマを手にしてもまだ、私はそう呟いていました。夢をみているような不思議な気持ちでした。
                     
                                             初めてみた♂、すばしっこく飛び回るのでなかなか撮れない
 
 とにかく日本では考えられないような環境にサラサヤンマが飛ぶことは間違いないようです。その証拠に13時を過ぎたあたりから、いわゆるポイントに次々と飛来するようになりました。いずれも♂のみで、飛翔自体は日本のサラサヤンマと変わることはありませんが、ホバリングする範囲はせいぜい2,3m四方と狭く、さらにホバリング継続時間は短く、すぐに地上から10cm程度の植物の茎に止まりました。一回のテリトリー飛翔時間は3,4分から20分とかなり個体によって異なりました。体が小さく、すぐに見失います。なぜこのような場所を飛ぶのか分かりませんが明らかにミクロ的な指向性が存在し、1頭採集するとすぐにまた1頭が入って来るといった具合です。飛来する個体すべてを見たわけではありませんが、鬱蒼と木々に囲まれた渓流から飛び出してくる♂を複数確認しました。
                    
  なかなかホバリングしてくれず、遠目からわずかな枚数しか撮れなかった
 
 この生息地には3回通うこととなりましたが、結局♀は1頭も見ませんでした。また、成熟が進むと、体色が変化することや、飛び始める時間が早くなることも分かりました。わずか1週間の期間内のことですから発生期全般のことは予想もつきません。この時期は昼前後から15時ぐらいに飛翔が観察されるようです。どうも渓流内の湿地に産卵している可能性があると思われました。この点はオキナワサラサなんかに似ているのかなと。
 今回捕えたサラサヤンマを良く観察すると何やら2種類混じっている可能性があることに気が付きました。これに関しては別項で述べていきたいと思います。
                   














 











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