2024年5月30日木曜日

Sarasaeschna yoshitomii を求めて再び Phu Samsum へ (Return to Phu Samsum for Sarasaeschna yoshitomii)

1 プーサムスン、サラサヤンマ編

                                   プーサムスンを望む 一番奥の峰がそれ (クリックすると拡大されます)

 3月に3種類のサラサヤンマを発見し、内2種は新種である可能性が高かったことに気を良くした私たちの眼は、おのずとラオス中部の高峰プーサムスンの湿地から記載された Sarasaeschna yoshitomii に向けられることになりました。
 このプーサムスンという山は、この山一帯でしか得られないようなトンボが多く、早くから訪れてはいたのですがほとんど晴れた日が無かったという、特に私にとってこの山はいわゆる鬼門というべき方角になっているのでしょう。この3月にも行きましたが全くの雨で何も得られず、いつもの落胆ばかり。しかしそうなることが分かっていても、毎回訪れるのは当たれば千金、何が採れるか全く分からない一種の賭けのようなものがあって、結局それに魅かれるのかも知れません。
 今回は5月中旬に再挑戦しました。いつものメンバーであるトシちゃんは都合でとうしも参加できませんでした。また、ラオスのシュワ君も大学の講座のレポート作成で来れないということで、私と宮畑年弘さん、そしてミーさんの3人だけの少し寂しい探索隊となりました。
    
               サラサヤンマが生息している湿地

 目的地のプーサムスンのサラサヤンマが生息する湿地にはヴィエンチャンを出発してから麓で一泊して翌日の9時に到着しました。前年6月には発生が終わっていたらしく、その姿を見ることはありませんでした。はやる気持ちを抑えて湿地に足を踏み入れます。「どれどれいるかなあ」、しかし天気は珍しく良いにもかかわらず、何も飛んでいません。もっともサラサは昼近くなると現れるので多分これからなのだろうと、不安ながら湿地で待つことになりました。10:30を回ったあたりでミーさんが奇声を上げました。駆けつけると♀を採集しているではないですか!「どこに居た!」、殺気立った私の表情に驚いた様子の彼は湿地の一角を指さしました。それは日陰がない湿地内部の水溜まり脇の水草がまばらに生え、地被類が地表を覆った場所でした。
 3月の S. minuta?( Asahina (1986) の原記載における尾部付属器と少し異なるので、科博のタイプと照合する必要があるかもしれません)の生息地での産卵や♀の飛翔個体の目撃は、全て鬱蒼とした森の中の流れ脇や薄暗いブッシュの中でしたから、S.  yoshitomii はこれとは全く異なる生態であることが分かります。ちなみに本種の♀はまだ未記載でこの個体が初記録だと思われます。
                     
      Sarasaeschna yoshitomii ♀

 その後新たな♀の飛来を待ち続けましたが追加できませんでした。一方♂は♀が来たことで、わんさかと出て来るものと今か今と待ち続けましたが、ようやく11時半ごろ、湿地の縁を歩いていた宮畑さんが湿地の上を1頭がホバリングしているのを発見しました。このサラサも小さい!4m×2mほどの狭い空間を結構長い時間ホバリングを交え、活発に飛翔しています。止まる気配はありません。他の場所でもと思い、湿地の奥の疎林に向かいましたが新たな個体は見つかりませんでした。
                     




                            Sarasaeschna yoshitomii (18/05/2024 宮畑年弘撮影 クリックすると拡大します)

 そのうちに曇って、霧雨が降ってきました。これ以上は無理と山を下り、以前オニヤンマやミナミヤンマの幼虫が捕れた麓の沢へ移動しました。麓に下ると天候は上々、まあ、いつもこんなもんです。目的の小さな沢には残念ながらオニヤンマの姿は無く、しかもまだ終齢幼虫がたくさんいることから、成虫出現は6月下旬から7月なのでは?シェンクワン県の北部には A. gigantica と gregoryi が生息していますが、ここプーサムスンは県の南端に当たり山塊も独立しているためその種類には興味が持たれます。
 翌日も午前中、湿地に上がってサラサヤンマを狙います。昨日よりも晴れ間が多く期待が高まります。10時過ぎにやっと1頭目の♂が湿地から離れた林縁部でホバリングしているのを確認しました。やはり小型、地色が黒でフォンサバン周辺のサラサとは雰囲気が違います。一回の飛翔は長く、やや日本のサラサヤンマに飛び方が似ています。この日は昨日と違って、約10頭の♂が次々に現れ皆同様に湿地脇の林に接した空間を飛びました。湿地内部で飛翔する個体は確認できませんでした。いずれの個体も若く、発生はこれからだと思われました。一方♀はとうとう見ることはできませんでした。また、陽が陰るといつの間にかいなくなってしまいます。付近を探しましたが見つかりませんでした。昼すぎからまた雨、撤退です。あーあこれからなのになあ。山を下りムガンの村はずれの沢に向かいます。
                                                           
                                                       プーサムスンの麓にあるムガンの遠望
     
 宮畑さんは流れの開けた場所でカワトンボ類の撮影を行い、私とミーさんは上流へと向かいました。標高は1200mぐらいです。渓流が完全に樹林帯に入り薄暗くなった時、脇のブッシュから大きなトンボが飛び出して地面にガのように落ちて動かなくなりました。あわてて手で押さえ見てみると Petaliaeschna の♀であることが分かりました。しかし、この♀ずいぶんでかい!ラオスからは Petaliaeschna flavipes の記録がありますが、これはカトリヤンマぐらいの大きさのヤンマで、今回の♀とは大きさが明らかに違いすぎました。この属は5種から成っていて、恐らくそのうちの1種であろうと思うのですが。この沢ではサナエ類がほとんど見られず、わずかにMattigomphus sp. の若い個体を複数得たにとどまりました。 
                     
                                                                         Petaliaeschna sp,

                        Mattigomphus sp.

 3日目、朝から湿地は雨。待っていてもしょうがないのでさらに標高2000mの峠へ向かいます。一方、宮畑さんは昨日の山麓にある渓流で巨大カワトンボ Archineura hetaerinoides の交尾と産卵を撮影するために別行動になりました。一人寂しくムガンの原野にとり残された宮畑さんは、「何だ、俺たちの縄張りに勝手に入って」とばかりに詰め寄る水牛の群れに恐怖しながら、お昼まで頑張って多くのトンボを撮影しました。以下にその一部を掲載します。
             Archineura hetaerinoides ♂ (18/05/2024 宮畑年弘撮影)
                                                                           
                                                               同 ♀
                          
                 Macromia moore ♂ 
 ( 20/05/2024 宮畑年弘撮影) 
                                                                              
                                                        Melligomphus
 sp ( 20/05/2024 宮畑年弘撮影) 
                                                                             
                                                       Anisopleura sp. (20/05/2024 宮畑年弘撮影
 
 この小さな渓流には多くのArchineura hetaerinoides が見られます。宮畑さんは延1日早朝から夕刻まで張り付いて観察していましたが、交尾、産卵をする個体は1匹もいませんでした。不思議です。本種の発生時期は当地で3月上旬ですから、未熟ではないのです。もしかすると交尾産卵は下流、あるいは本流でおこなうのでは?と。
 Macromia moorei はシェンクワン県では広く山地帯に見られます。♀の産卵は一般的には河川岸部の流れがやや緩やかになった部分に打水して産卵しますが、これまで、トゲオトンボやルリモントンボが見られるような薄暗い源流域、河川脇の岩の上に溜まった水溜まりさらに渓流脇の湿地で産卵を観察したことがあり、その産卵選択性は極めて広いと感じます。
  Melligomphus sp. がいたのには驚きました。この標高(1300m)でもいるなら、かなり広範囲に分布しているものと思われます。Melligomphus 属は分類屋泣かせのトンボです。しっかり尾部付属器を実体顕微鏡で覗かないと区別がつかない種が多いのです。今回の写真からでは種の同定は困難です。
 Anisopleura sp. これも厄介です。あまり興味がないこともあって、まだ同定していないラオス産の種類が少し残ってます。一般には山地の鬱蒼した樹林帯の中を流れる河川の石に止まっていることが多いのですが、今回の個体も薄暗い流れの中の石に静止していましたが、敏感ですぐに樹上にあがってしまったそうです。プーサムスンの周辺部からも記録されていますが、同じものかは判断がつきませんでした。
  一方、私は気が付かなかったのですが、宮畑さんがこれ違うよ!と教えてくれたのがこのハナダカトンボ。なるほど、確かに翅の色が青い。 
                                                           
                                                             
                                                               
                                                             
                               やはり見たことがないハナダカ なんだろ?( 20/05/2024 宮畑年弘撮影)
                                          
 一方、峠一帯にはガスが濃く、採集にはどうかなと思われるほどでしたが、しばらくすると薄日が差す程度になってきました。かつて峠付近には小規模の湿地が点在していて、珍種の Mesopodagrion がみられました。ただ、ここ数年環境が変化していて、はたしてまだ生息しているかどうかというのも今回の探索目的でもありました。
                    
                  森の奥に向かって進む

                 
峠周辺に多数見られる源頭部
                                                                                                     
 小雨、時折薄日射す山道を歩きます。しばらく進むと突然ミーさんが私を手招きします。Megalestes です。何と細流脇の葉の上に翅を広げて静止しているではありませんか!この種は樹木の下枝などにぶら下がっている姿しか見たことがありません。この様に翅を開いて細流脇に降りて、配偶行動を行う姿は初めて見ました。そばにはやはり樹上から降りてきた Calphaea の一種も止まっています。慌ててカメラを向けた瞬間、飛び立ってしまいました。残念!さらに別な場所でも同様の行動を観察しました。どうもカワトンボ類のように細流で♀を待ち伏せして交尾するようです。てっきり、樹林の中の小池の脇で配偶行動がおこなわれているものと思っていました。写真は撮れていないと思っていたのですが、ピンボケが1枚撮れていました。その後小雨となり追加観察することは出来ず、また以前周辺で記録していたサナエ類も残念ながら見ることは出来ませんでした。期待していた Mesopodagrion は湿地様環境が少し残っていましたので晴れていれば見れたものと思います。
                    
        ピンボケご容赦 流れの脇の葉の上で止まって♀を待つ?Megalestes micans♂
                      
             Megalestes が見られるプーサムスンの源流域の景観
                          
              源頭部のながれの脇の灌木にひっそりと止まるMegalestes micans
                                                                              
                                                          記念写真 はいチーズ
              
  We visited Phu Samsum in Central Laos in search of Sarasaeschna Yoshitomii in late May 2024.  
  The dragonfly lived in a bright wetland at an altitude of 1800m, and flew around noon. ♂ had a territory of about 3 to 5m square and flew for a long time with hovering. This time, I collected ♀ for the first time and posted the photo.







2024年4月7日日曜日

ラオスのサラサヤンマ探索記(3)The Search for Sarasayanma in Laos (Please view this blog on a computer, garbled text and line shifts will occur).

 Sarasaechna minuta の発生地を発見する

 3月のラオスのトンボは周年発生の種類は別として、特に河川に生息するトンボは一部の異様に早く発生する種以外、まだほとんどが未発生です。ですから環境が素晴らしくとも何も居ません。フォンサバンでのサラサヤンマの生殖活動は源流域の渓流を中心に行われていると思われますが、どこが産卵場所になるか見当もつきません。♂が活動する時間帯に渓流内に降りて待ってはみましたが姿をみることはかないませんでした。トンボはタイワンカワトンボがいるだけで、他は何も居ませんでした。      
 私たちは数日後フォンサバンを離れ、東に50km のマンカム(バンバン)に移動しました。この町は北に位置するサムヌアへの分岐点となっていて、東はベトナムへと続いています。標高は600mほどで、高原のフォンサバンに比較してかなり暑く感じました。
                    
                     夕暮れのマンカムの街並み
                     
                     サムヌア方面への道

 このマンカム周辺でサラサヤンマを狙うこととしました。最後にここを訪れたのはもう15年も前の事となります。当時の断片的な記憶をたどり、目星を付けた山間の湿地を目指しました。目的地は山間に広がる大きな谷間で、多くの池沼や湿地が点在しています。特に山際の湿地は灌木がまばらに生えて、日陰も多くまさに本種の発生地にはピッタリです。

                     
                  環境の良い池と明るい湿地

 しかし、ここで散々粘ったのですが、サラサヤンマを見ることはできませんでした。日本や台湾なら居そうなんですが。しょうがないので、この地をあきらめて引き返し始めた時、谷間を流れる細い流れが目に入りました。周囲は水田と湿地になっていて、川のながれに沿って樹林が川を覆う様にうねうねと続いています。道から降りてゆくと、意外に樹林帯に奥行があって環境が良く、5月上旬にはいろいろな種類のトンボが見れるかもしれないと思っていたら、ラオスの友人がいきなり私を呼びました。彼は川を飛び越えて、樹林の林床の中に居ました。盛んに手招きしています。
                   
                     流れと林床

何かトンボがいるようです。「いいから採れ、採れ」というと、いきなり地面に網をかぶせました。何だ何だと駆けつけると手にしていたのは、予想だにしていなかったサラサヤンマの♀でした。アカトンボぐらいの大きさしかありません。林床の薄暗い陽の光の中で、サラサの♀は浅黄色の胸部と、そして鮮やかな黄色の斑紋の腹部といった今まで見たことのない妖しい美しさを纏っていました。その美しさに一同、声が出ませんでした。
                      
              サラサの♀が産卵飛翔する林床部(かなりぬかるんでいる)
                     
                  ♂が飛ぶ空き地、手前が流れ

 時間は12時前、こんなところが発生地だったとは。そのうちとしちゃんが♂を採ったと連絡が来ました。何処で採ったの!と。そこは流れの脇の上空が開いた小さな空き地でした。
 この空き地の先は芝のような草地が20×30mほどの広がっていて、牛が陽の光を浴びて草を食んでいました。何気なくタバコを吸いに明るい草地にでたところ、瞬時にサラサが目の前をホバリングしているのを見つけました。いやいや、これは小さい。すぐにどこに行ったか見失います。急いでM氏やとしちゃんを呼びました。いよいよM氏の本領発揮となるカメラの出番です。
                  
                     
                     
             Sarasaechna minuta ? 上2枚 T. Miyahata 撮影, 23/03/2024 

 現れたサラサヤンマはもちろん種名(後日 S. minuta に近い種とわかりました)など分からなかったのですが、やはりフォンサバンで見たのと同じくらい小さい。日本のサラサヤンマよりすばしっこく、ホバリングの時間は非常に短いように思いました。ファインダーに収めることが困難です。ただかなり長く飛翔しており、フォンサバンで見たようにすぐに止まることはしません。この個体はしばらく我々を楽しませてから飛び去りました。
 この直後、またラオスの友人が手招きしています。今度は何?そばに行くと、サラサが産卵しているようです。彼は流れの脇の蔓性植物や枝が覆いかぶさった薄暗い幅1.5m、高さ50cmほどのトンネル状になった藪を指さしています。良く見ると、ああ、いるいる。♀が産卵しています。地面には枯れ枝や、枯葉が一面に落ちていて地面が露出しているところは殆どありません。産卵管を突き刺してはちょっと飛んで、同じような行動を繰り返します。地面はややぬかるんでいますが、湿地という感じではありません。早速、M氏が駆け付けました。まさに氏のために用意された舞台に主演女優が登場したようなものです。
                      
                 赤丸内が産卵場所(流れから3m)

                 産卵個体にそーっと近づくM氏とラオスの友人
 
                   こんなにきれいなサラサの♀見たことある? S. minuta, T. Miyahata 撮影, 22/03/2024

 この産卵場所にはここを離れるまで計4回、♀が同じように産卵に訪れました。この♀はオスがすぐそばの開けた草地で縄張り飛翔することから、S. minuta ではないかと考えています。その後同じ場所で採集した♀は写真に示したような胸部が浅黄色ではなく、淡い黄色だったので、あるいは成熟すると浅黄色に変化するのかも知れません。
              採集した♀、目の色がやや未熟なので、若い個体だと思う

 産卵はいずれも昼前後から観察され、13:00頃が多かった印象があります。
 この生息地には実はもう1種いることが分かりました。フォンサバンで見た2種のうちBに当たるサラサヤンマです。このサラサヤンマはS.minuta が見られる場所では観察できず、さらに上流で見られました。何となく棲み分けしているのかな、とも思われます。フォンサバンの場合と同じく、流れに近い、ブッシュに囲まれた狭い空き地をホバリングを交え、せわしく飛び、すぐ植物にぶら下がって休息します。現れる時間は決まって昼前後から13:30ぐらいで、その前後は全く見ることができません。また日が射さないと出てきません。真昼ですからかなりの日射量となって私たちには暑く、厳しい条件となります。
 一度だけ多分この種類の♀だと思うのですが、林床を産卵箇所を探すようにホバリングを交えゆっくりと地表すれすれに飛ぶ姿を確認しましたが、慌てて動いたため、飛び去ってしましました。
                    
               流れから緩やかな斜面が空き地(Bの♂が飛ぶ)に続く

              ♀が産卵飛翔した斜面の状況、かなり湿った感じ。
 
 B のサラサヤンマがこの地にいて、それらしい♀(確証はありませんが)が S. minuta と同じような林床に産卵飛翔したことからやはり、今回発見したフォンサバンの AB は当初予想したとおり樹林に囲まれた渓流や、小河川あるいは細流に住み、その湿った林床に産卵するということに間違いないと思われます。また同時に、この3月には明るい開放的な湿地に住むようなサラサヤンマはこの地域にはいない可能性が高いと考えられました。
 以下にM氏が撮ったサラサヤンマを上げたいと思います。インドシナ半島産のサラサでこれほど鮮明に撮影されたものは無かったと思います。
                    
            フォンサバンのサラサヤンマ B?, T. Miyahata 撮影, 26/03/2024
                                                                               
                                                                      同
                        
                         同
                         
                  このサラサヤンマは良く止まる。地上10cmぐらいの高さ   































 

  
















2024年4月6日土曜日

ラオスのサラサヤンマ探索記(2)

  フォンサバン産のサラサは2種あるか?
 前のページでも触れたように、同一生息地で得られたサラサヤンマは何となく2種混じっているような気がしてなりません。はたしてどうか?帰国してから詳細に見てみることにしました。
 帰国後のバタバタがひとまず区切りがついたので、まず尾部付属器を見てみました。今回得られたサラサヤンマの上付属器は明らかに形状が異なり、Aは細長いのに対してBはへら状に幅広で先端が丸まる。一方、下部付属器は一見、良く似ているが、良ーくと見ると基部の幅や二股に分岐する先端部のV字の角度などが異なっていることが分かります。イメージ的にはABに対して細長い。一方斑紋は若干Bの個体が腹部側面の斑紋が大きく見えます。しかしそのほかに目立った斑紋の相違点は認められませんでした。
 亡くなった友人のサラサの標本を改めて調べてみるとやはりこの2(A,B)が含まれていていることが分かりました。ペニスについては標本を軟化しなくてはならないので、今回は割愛します。主に尾部付属器の違いで、両者は容易に識別できました。これら2種を他の既知種と比較すると、下図のように該当するものがないことから、たぶん新種だと判断されます。この結果、ラオスからは2種の新種(だとして)とminuta およびyoshitomii の4種が記録されたことになります。
     
                        
 A                    B                     A                    B
   
                           A                                                        B
                     
                  A, B いずれもシェンクワン県フォンサバン近郊の同一産地

 インドシナ半島部から知られるサラサヤンマ属全種の尾部付属器の比較(簡単なスケッチでスケールはいい加減です。)です。gaofengensis を除いて記載図から作画してます。今のところ、各種はその尾部付属器の形で、しかも上付属器背面から図のみで区別できることが分かります。
                    

















2024年4月2日火曜日

ラオスのサラサヤンマ探索記(1)

 2020年12月に、それまで一緒にラオスのトンボを調査してきたラオスの大切な友人を失いました。失意の下にあった私にある日、友人の奥さんから1個の大きな小包が送られて来ました。それは過去に彼が採りためていた採集品でした。 
   この中には多くの興味深い種が含まれていました。そしてこれまで全く採集できなかったサラサヤンマを複数その中に見出したのです。日付は12-25/03/98とあり、産地はシェンクワン県フォンサバン近郊でした。居てもたってもすぐに駆け付けたかったのですが、その後のコロナでラオスには渡ることができませんでした。そこで現地の知人に頼んでサラサヤンマを探してもらっていましたが、昨年、幸運にも亡くなった友人が採集した地点とほどんど変わらない場所で新たな♂を複数採集することに成功したのです(前項)。
                     
       ラオスの行程図:行きはVientianeからBコースでPhonsavanへ. 帰りはAコース

 そして本年、3月にサラサヤンマを求め、いつものM氏、としちゃんと私で前年、ラオスの友人が確認した場所に行くことになったのです。目的地はラオス中部シェンクワン県の県都フォンサバンです。
 通常ここへ行くには、車で首都のビエンチャンから国道13号を南下して2時間弱のシェンクワンへの分岐点パクサンに向かいます。ここからフォンサバンまでは約4時間強かかります。そんなことから今回も途中、採集しながら行っても夕方にはホテルに着くと気楽に思っていました。ところが今回パクサンからの道が曲者でした。中国の大型トレラーが昼夜を問わずこの道をひっきりなしに走行していて(その台数は数百台になると思います。何を運んでいるのか?)、この中国の大型トレーラーの走行で、もともと良いとは言えなかった道がさらに掘れて数メートルおきに大きな穴が開いていています。坂ではカーブの部分がどうやったらこんなに深いわだちが出来るのかと思うほど大きくえぐれ、はまったら出られなくなりそうでした。車高の低い車では走破は苦しいでしょう。まして降雨があれば、通行はどんな車も出来ないでしょう。すぐに補修工事を行えば済むことだと思いますが、主要幹線にも関わらず全区間全く放置されています。多分ラオス政府には補修にかけるお金が無いのだと思います。コロナ騒ぎで、最大の収入源の観光収入が途絶えたことや中国からの莫大な借款の発生、いわゆる債務の罠というやつですね。これらが大幅な収入減の原因になっているのだと思います。
 結局、朝ビエンチャンを出発して最終的にフォンサバンに疲労困憊で到着したのは以前の倍近く、10時間もかかってしまいました。フォンサバンはラオス中部の要衝で、コロナ以前は、ラオス経済の急激な発展ぶりを象徴するような活気のある町でした。ところが今回、町は人通りも少なく、商店街はシャッタ―を下ろしたお店が多く、明らかに状況が変わっていました。中国経済の停滞はその依存度が高いラオスの国内経済のさらなる凋落につながっていくのではと危惧します。
                    
                     閑散としたフォンサバン街中
                         
              しかし、庶民の生活を支える市場の賑わいはいつもと変わらない

 翌日、友人の案内で、いよいよサラサヤンマの生息地に向かいます。天気も良く晴れてこの上なく気持ちが高揚して来ます。どんな環境にいるのか、確実に発生しているのかとか、次々に興味と不安が交互にわいてきます。発生地はフォンサバンから1時間ほどの山間の村で、友人の家に車を止めてそこから歩いて発生地に向かいます。
                     
                      準備を整え、いざ、出陣!
                          
                     発生地はこの川の上流にあるという
                          
              川の両側が畑になっていて、手前はブロッコリーで対岸が何とイチゴ

川はだんだん上流の雰囲気になってきました

今度は川から離れ延々と山道です. 暑じー!まだですかー?

 村はずれから、田んぼの畦を伝って川沿いを上流の発生地を目指します。事前に把握していた場所は1kmぐらいですから10分ぐらいで着くものと予想していました。しかし、案内してくれる友人はどんどん先に進みます。あれ、おかしいなあ、と思いつつ付いていきます。炎天下の中のアップダウンは日頃の運動不足が祟って早くもギブアップです。まだ先あんのー?と。歩くこと1時間以上。ようやく友人がここだと指さしました。勇んでその場を見ると、「え!」水気など全くない、ただの草原じゃない!どう見ても湿地ではありません。最近、かなり生えていたと思われる灌木類や丈の高いイネ科植物を刈り倒したようです。こんなとこ本当に飛ぶのかい?一気に期待から絶望に心がしおれていくのを感じました。
 もう一度友人を呼んで、採集時の話を聞きました。現在時刻は10時、飛ぶポイントがあって、案内すると言います。発生地?の草原はかつて水田であったことは間違いないようで、田越用水を行っていた跡が見られました。ということは以前は水田であったが放棄され、湿地になったところに本種が進出した。現在は乾燥が進んでこの場所からは姿を消すまさにその瞬間が昨年であって、今年はこのカラカラの元水田跡からは発生はしないのではないか。
 彼についてゆくと、草地の脇に細い渓流(といっても高低差が大きいものではない)が樹林の中を流れています(もうここは源流地帯です)。彼が飛ぶという場所は全て渓流の脇に広がる草地で、しいて言うなら周囲を灌木や背の高いイネ科植物に囲まれていたり、ややくぼ地であったりする特長がありました。この場所の周囲に湿地らしい場所は1つもありませんでした。

         サラサヤンマが飛ぶ乾いた草原(生えていた灌木や草が刈り倒されている)
                     
            ややくぼ地になった場所、わきを渓流が流れる
                    
             この場所も飛ぶそうだ。ほんとかい?左側は渓流

 案内されればされるほど、ますます絶対にこんな所は飛ばないという確信みたいなものが出てきて、また失敗に終わるのかと悲観的になっていきました。友人がとにかく昼飯にしようということなので、湿地?入口の木立のなかで昼食にすることにしました。
 改めて友人に聞きます。昨年採集した時、ここは湿地だったのかと。彼の答えは明快でした。昨年と同じである。周りの水田もまだ水を入れてない。送った写真は9月に撮ったものだ。トンボは15時に採集した。それまでは見ていないという。さすがに落胆する私の顔を見て友人は、責任を感じたのか、食事を済ますとすぐに草地の奥に網をもって出かけて行きました。そのころには私は、サラサはここで偶然採集されたもので発生地は別にあると完全に信ずるに至っていました。そして今後の日程をいかに消化するか、経費はどうなるかを悶々と考えていました。
 13時近く、友人たちが遠くで声を上げるのが聞こえました。しばらくすると友人たちがニコニコしながらやってきました。そしてその三角紙にはこれはこれは綺麗なサラサヤンマが収まっていました。「ほんとに居たのかい?」サラサヤンマを手にしてもまだ、私はそう呟いていました。夢をみているような不思議な気持ちでした。
                     
                                             初めてみた♂、すばしっこく飛び回るのでなかなか撮れない
 
 とにかく日本では考えられないような環境にサラサヤンマが飛ぶことは間違いないようです。その証拠に13時を過ぎたあたりから、いわゆるポイントに次々と飛来するようになりました。いずれも♂のみで、飛翔自体は日本のサラサヤンマと変わることはありませんが、ホバリングする範囲はせいぜい2,3m四方と狭く、さらにホバリング継続時間は短く、すぐに地上から10cm程度の植物の茎に止まりました。一回のテリトリー飛翔時間は3,4分から20分とかなり個体によって異なりました。体が小さく、すぐに見失います。なぜこのような場所を飛ぶのか分かりませんが明らかにミクロ的な指向性が存在し、1頭採集するとすぐにまた1頭が入って来るといった具合です。飛来する個体すべてを見たわけではありませんが、鬱蒼と木々に囲まれた渓流から飛び出してくる♂を複数確認しました。
                    
  なかなかホバリングしてくれず、遠目からわずかな枚数しか撮れなかった
 
 この生息地には3回通うこととなりましたが、結局♀は1頭も見ませんでした。また、成熟が進むと、体色が変化することや、飛び始める時間が早くなることも分かりました。わずか1週間の期間内のことですから発生期全般のことは予想もつきません。この時期は昼前後から15時ぐらいに飛翔が観察されるようです。どうも渓流内の湿地に産卵している可能性があると思われました。この点はオキナワサラサなんかに似ているのかなと。
 今回捕えたサラサヤンマを良く観察すると何やら2種類混じっている可能性があることに気が付きました。これに関しては別項で述べていきたいと思います。
                   














 











2024年2月25日日曜日

Laos の Devadatta 属(2)(パソコンでご覧ください。文字化け、行ずれが起きます)

argyoides グループ

 Devadatta 属の中では最もポピュラー(もちろんほとんど得られていない種も多い)な形態をしている種群で、主にボルネオ島~インドシナ半島南部に分布しています。頭部の後頭楯は金属光沢を呈することが多く、体色はダークブラウン~黒、胸部側面に明瞭な細い筋状の淡いラインが第1、2側縫線上に明瞭に現れます。腹部の3~7節には明瞭な明るい茶色の斑紋が見られ、翅の先端はつま黒になる特徴があります。                                      

                                       Devadatta cyanocephala ラオス中部 Thatom 産

 ラオスでこのグループに属するものはラオス中部~南部から記録されている cyanocephala 1 種のみが記録されています。このほかに Devadatta 属(1)のページで触れたとおり multinervosa も属する可能性があるかも知れません(この辺の判断はむずかしいですね。タイプの写真から第3腹節背面に淡い斑紋らしいものが認められることから、もしかするとこれは別属かも?)。
 このグループも生息地は低山地~山岳地域の細く勾配のきつい沢に見られ、薄暗い谷合の突き出た樹木の枝先に止まっているのが観察されます。決して植物の葉には止まらないようです。
 
3 glaucinotata グループ

 最後に glaucinotata グループです。特徴は前のブログページに書いてありますので、割愛します。D. glaucinotata はラオス中部、今では欧米人に人気がある観光地であるVangvieng(バンビエン)から国道13号を更に30分ほど車で北に行ったPatang(バタン)付近から得られています。国道13号から Nam Song(ソン川)に沿にそって脇道を進みますと、いくつかの沢と交差します。標高は350~400m であまり高くはありませんが、多くの珍しいトンボがそれぞれの沢に見られました。この流域ではこの glaucinotata の他に、これも非常にめずらしいハナダカトンボの仲間、Rhinocypha peitho(これまでに Patang でタイプの1♂、中部ラオスの2地点からそれぞれ1♂ と1♀しか得られていない)が採れています。
 glaucinotata とは別に、異なる2種が中東部のアンナン山脈西麓から得られていて、その胸部の特徴ある斑紋からこのグループに属すると考えられます。 
                    
               Devadatta
spラオス中部 Thatom 産

               
Devadatta spラオス中部 Mok 産 

 Thatom 産の個体はやや若く、採集した時は胸部の色が鮮やかなライトブルーをしていて、とてもこれがあの地味な Devadatta とは思えないほどでした。しかし、標本にするとたちまち灰色に変化してしまいました。成熟すると胸部は青灰色に変化していくのかも知れません。
 一方、Mok 産は当初、glaucinotata だと思っていましたが、後日、改めて見てみると、胸部斑紋や尾部付属器の形がかなり異なることから別種であることの可能性が高いと思います。しかし、いずれも1個体しか得られていないため、さらに標本が集まらないと明確なことは言えません。
 
 ベトナムとは違って、cyanocephala を除くと、ラオスでのこの種のトンボを採集できる機会はほとんどありません。そして不思議なことに、なぜかほとんど単独でしか巡り合うことが出来ていません。近年の猛烈な開発はラオスも例外ではなく、中国雲南省の省都昆明からビエンチャンまで開通した高速鉄道の建設で、Patang 周辺の環境は完全に変わってしまい、昔の面影は現在ありませんでした。
 種の多様性条約締結後、それぞれの国々での昆虫採集は厳しくなる一方で、何が居るのか分からないうちに生息地そのものが大規模開発で失われることは、何ともやりきれない気持ちになります。

 








 
 

 

                      

                    
 


        


     

No way I'm catching any dragonflies in this dark! 「ラクサオ Stylurus amicusの巻」

  インドシナ半島での Stylurus 属はベトナムから知られている程度であったのかなと思います。すでにベトナムからは S . clathratus が報告されていて、この他にも1種の不明種が記録されているようです。Tom Kompier 氏によれば 最近  Stylur...