yvonna やーい!2/2 (Japanese only)
Phu Sam Sunへ 私たちはこの yvonna の出会いがあってからは、全てをこのトンボの再発見に費やさすことになりました。翌年、早速5月の連休にフォンサバン東南部の旧シェンクワンの町周辺から探索を始めました。この一帯はベトナム戦争時に米軍の徹底的な爆撃を受けていて、周辺の森林もほとんどが焼き払われています。今も不発弾の事故が絶えず、アメリカの支援を受けて不発弾処理が行われている光景を何回も見ました。私たちは周辺の河川をくまなく、くたくたになりながら見て回りましたが、結局全く収穫はありませんでした。挙句の果てに、案内してくれている友人が、夕食時にクラスター爆弾のように小さな不発弾は雨で河川に流れ込み、堆積していることが多いなどと、真面目な顔をして言い出し、「なぜもっと早く言わんか!」と私たちを怒らせました。
翌年、さらに2年、3年と、私たちは東へ東へと探索域を広げ、とうとうラオスで2番目に高いPhu Sam Sun山麓へ到達しました。これ以前2010年にこの山を初めて目指しましたが、とんでもない悪路の連続で、さすがに我々の車でも走破が困難で断念したことがありました。そしてその翌年、Phu Sam Sunを超える新しい道が台湾か中国の援助でできました。Phu Sam Sunの峠は2000mを超える標高があります。新しい道のおかげでフォンサバンからわずか2時間でPhu Sam Sunの麓の村に到達できるようになりました。途中には大小の渓流や多数の池沼、湿地が点在します。
毎回、何かが障害として立ちはだかる、今度は橋が落ちた!(photo by Toshi-tyan) Phu SamSunへの道、建設中の悪路を行く。なんと道を建設中!
途中の標高800m付近の渓流 ミナミヤンマが見られる
標高1200m付近の丘陵地のなだらかな谷に形成された湿地 ( Photo by Toshi-Tyan ) 高地性のIndolestes, AgriocnemisやAsiagrionなどが生息する。
Phu Sam Sun 周辺の集落周辺は樹木がほとんど無く、広大な放牧地になっていてます。昆虫相は貧弱のように思っていましたが、ちょっとした湿地や流れにはこの地で初めてみる昆虫類が多いのに驚かされました。トンボも初めてみるものが結構多く、周辺の沢にはこの時期でもミナミヤンマや Idionyx 類なども見れました。
Anisopleura sp. Muang Khun east 50km
Chlorogomphus hiten ditto
湿地に生息する Agriocnemis clauseni ラオスでは高山性のイトトンボ (photo by Miyahata)
キイロヤマトンボの1種 Macromia murakii の出現
SamSun は3つの頂きという意味で、非常に大きな山塊です。2015年4月下旬、この山に取りつく場所は限られ北斜面を流れる大きな沢を遡上しながら懸命に探索しました。しかし、残念ながら目的のカワトンボの姿は見られませんでした。一帯の標高が高いため、途中の湿地や峠付近を流れる渓流で見られるトンボはさすがに平地とは異なり、高山性のミナミアオイトトンボ、Indolestes、Caliphaea、Mesopodagrion およびダビドサナエ属の未記載種が次々に得られました。これはこれで良いのですが、やはりyvonnaを手にしないことには話になりません。いったいどこに居るのだろう?
さらに翌日の探索はとうとうPhu SamSunを越えた小さな町 Muang Mo付近の渓流まで及びました。この日は時間があったため夕刻、近くの渓流に行ってみました。大きな石がゴロゴロしたかなり傾斜がある急流の渓流でしたが、いたるところにアオサナエ(種名は調べていません)がいて、産卵も多数見られました。写真を撮るのに夢中になっていると、何やら後ろを飛び回る大きな影に気が付きました。Macromiaだ!カメラを放りだして網をとると、ここぞとばかりに振りぬき、ガサガサと。やったなんだろう?calliopeかな。取り出してみると、何これ!キイロヤマじゃん。驚きました。こんな大きな岩や石がごろごろした急流にキイロヤマが居るとは。Sam Nua付近では日本の生息地と変わらない環境にキイロヤマトンボの1種Macromia murakiiが居ましたが、こんな渓流にいるとはなかなか納得できません。これもまた別種なのかとも思いました。すぐに、上流にいたToshi-Tyanさんに電話で知らせました(ラオスではどんな山奥でもだいたい携帯が繋がります)。
Phu SamSun方面を望む. 頂上はピークの向こうで,まだ見えない ( Photo by Toshi-Tyan )
多産するアオサナエ sp.の産卵 2015.5 Baung Mo
キイロヤマトンボの1種が飛んでくる渓流 ( Photo by Toshi-Tyan )
Macromia murakii の雄 Sum Nua 産
Xam Nua産の Macromia murakii とMo 産の標本の比較
連絡を受けたToshi-Tyanさんは粘った末にあらたな雄を採集することができました。
Macromia murakii は最近記載したキイロヤマトンボの1種で、北部ラオスのXam Nua 近郊がタイプロカリティとなっています。生息環境があまりにも違うので、当初は別種かと思っていましたが、帰国後調べたところ、上にあげた写真の通り、差異はほとんどなく、これもM. murakiiと同定しました。
救世主現る
さて、目指すyvonnaはついに今年も見つけることができませんでした。数年にわたって本種を求めてきたのですが、さすがに気力もお金もなくなりそうでした。特に後者は痛い。ラオスの友人も何か責任を感じて、一生懸命に尽くしてくれるのですが。そんな時に、突然ある方からメールを頂きました。ラオスのトンボリストを見たそうで、聞けばリストにある Mnais sp. 1は3月中旬にPhu Sam Sunで多数採れているというのです。これにはひっくりかえるほどに仰天しました。正直パソコンのメールの文字がかすれて見えました。何で3月なんだ!聞けば、本種は3月いっぱい見られ、4月には居なくなるとのこと。じゃあ、私たちはこの数年、何をやっていたのか!さらにご厚意に甘えて、採集した地点まで教えていただきました(この方はチョウの有名な研究者で、ついでに採れるトンボを関西のK氏に送っていたとのこと)。教えられた地点は、私たちが何度も足を運んだその場所そのものでした。あそこにいたのか!何か宙に浮いたような気分になりながら、腑抜けのような状態で皆に連絡しました。まさに救世主、天の声でした。三角紙に書かれた5月中旬の文字に完全に惑わされていました。
翌年3月、この天の声に導かれて、ついに私たちは5年の歳月を費やして本懐を遂げることとなったのです。この時、このポイント(標高約1500m)には2種のMnaisが居ました。透明の翅を持つincolor と黒バンドのyvonnaです。これは、やはりyvonnaは単なる型なのかなと思いました。しかし、両種ははっきりと生息地が分かれているようにも見えました。より上流部にincolorが、下流にyvonnaです。数はとても少なく、ごちゃごちゃ居ると伺った状況とは異なり、incolorが4 頭、yvonnaが3頭しか目撃できませんでした。生態的な観察はほとんどできません。なにより採ることが優先でしたから。でも若干の観察から分かったのは、このトンボは陽が陰るとすぐに周辺の木々の樹上に上がってしまい、陽が射すとまた降りて来るのです。決して木の葉や、枝には止まらず、必ず川中や岸辺の大きな岩の上に止まりました。止まる場合、体を石に密着させます。Mnais 属ではあまり見ない生態だと思います。
Locality of M. incolor and M. yvonna (Alt. 1600m)
Mnais of Phu Sam Sun: M. mneme, above, M. tenuis, middle, M. incolor, below.
今回は写真を撮る余裕がありませんででした。ぜひ、次回は交尾や産卵を観察したいと思いました。また、同じ場所では午前中待っていると、次々に大きなMacromiaが飛んで来ます。3月にすでに出ているのです。こんな肌寒い時期に、なんだろうと、苦労して採集してみると良くわからない種が網に入っていました。この時期にはタイワンシオヤトンボも多く、気温も20℃程度で日本の早春のような日和でした。ここは本当にラオスなんですかねえ。
私たちはその後、再び調査のために当地をおとずれましたが、先に記したように天候に恵まれず、再会を果たせないままです。この間 Phu Sum Sunはラオスのなかでも最も自然環境が残されている地域なのですが、あっという間に開発の波が押し寄せ、深く緑濃い渓流や広大な湿地が、ダムや土砂採掘の場に変わり、みるみる環境が激変していきました。その環境破壊には驚かされました。はたして次回訪れる時まで、トンボたちは生き残っているのでしょうかとても心配です。
老いないうちに行きたいな。ワクチンは一番で接種するぞ。
返信削除その通り、まずは自衛です。
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