2020年10月23日金曜日

Photo gallery of Lao dragonflies (3)

    Exploration of Lao dragonflies in October 2019 (3/3) 

最後の目的地のロンサン(Lonsan)へは、まずシェンクワンから南に約180kmのPaksanに出て、そこから国道13号をビエンチャン方面に50km、Thabokを目指します。ここまで車で約5時間。さらにそこから北のサイソンブン県チャ(Cha)に向かって約50km進むと、やっと懐かしのロンサンです。20年前は来れませんでした。当時はまだ反政府ゲリラがこの一帯に潜み、しばしば軍と戦闘を交えていましたし、時には定期バスが襲撃されたりして、結構緊張を強いられました。この近くに行く場合は、必ず車にAK47自動小銃を積んで行ったものでした。            

Lonsan is 50 km north of Thabok (about an hour's drive from Vientiane). There are few natural forests left in this area, but many interesting dragonflies can be seen in the few remaining natural forests.The route from Thabok to Cha was very dangerous 10 years ago due to the rebela guerrillas' darkening, but is now safer with the development of gold mines.

              ロンサンの町そしてサイソンブンの山々を望む
                        Overlooking the town of Lonsan and the mountains of Saysomboune

ロンサンに至る道沿いでこれまで5~8月にかけて何回かムモンギンヤンマを見かけていました。以前、ラオスの親友からビエンチャン周辺で採ったという、多数の本種が串刺しになって送られてきました。日付を見ると10月中旬でした。そこで今回の旅行はこの時期に決めた経緯がありました。ぜひこの目で交尾と産卵行動を見てみようと。

このタボックからロンサンさらに県都チャに至る道路は日本のODAによって建設されたと言います。日本は道路のインフラのみ援助したわけですが、実はチャの西方の山々には巨大な金鉱脈が眠っていて(日本はそれを事前に知っていたかは分かりません)、その後、採掘権をオーストラリアの鉱山会社が取得して、この整備された道路を大いに活用して一大開発がおこなわれました。全く日本はお人好しだとラオスの友人は笑っていました。しかしこの一帯は反政府ゲリラの巣窟になっていたため、開発はゲリラ掃討との闘いでもあったようです。しかし結局、要はお金なんですね。巨大な金鉱山、労働力はどうしても地元に求めざるを得ません。そこで反政府ゲリラの人たちを最終的に雇用し、多くの人たちがこれに応じ、それまで難しかった現金収入の道を開き、一挙にこの地域は平穏になっていったというわけです ( 今はチャの周辺、特にラオス最高峰のビア山は現在もゲリラが立てこもって軍隊と対峙しています。なぜ社会主義国のラオスに反政府勢力が存在するのかは、全てがベトナム戦争とアメリカの政策が原因となっています。このへんはラオスの昆虫に興味があって、ラオスに行きたい気持ちがある人はぜひ理解しておく必要があります)。

                     
                   金鉱山と脇に作られた重金属で汚染された湖  Gold mine and polluted lake

ロンサン周辺の河川は石灰岩の岩盤を流れ、河床に土砂や有機物が厚く堆積することが少なく、大型のサナエ、ヤマトンボ類は少ないようです。また、森林も多くが2次林を占め、自然林は伐採が困難な山の急斜面にわずかに残されています。こうした渓流にもNoguchiphaea属、Philoganga属、Rhinocypha属、Cepharaeschna属、さらに森林性のトンボ科のトンボが多数見られ、かつてのこの地域のトンボ相がいかに豊かであったかを物語っています。

                                                              
      ロンサンの山々とその渓流  Lonsan mountains and their mountain streams

この地で最も注目されるのがのNoguchiphaeaです。ロンサンの本種は Noguchiphaea laoticaラオスの名が種名につけられています(Sasamoto, at al., 2019)*。このトンボは完全に森林性のトンボで生息環境は薄暗く、湿った森に住みます。成虫は暗い森林の中でわずかに陽が差す、木漏れ日が当たるような、高さが目の高さぐらいの木々の枝先の葉に止まって雌の産卵を待ちます。陽が陰ると樹上に上がってしまいます。生息地のロンサンの小さな渓流では個体数が少なく観察がとても困難でしたが、産卵をかろうじて見ることができました。暗い渓流の流れの脇にあった枯れた植物の茎に雌が飛来して産卵を行うのを観察できました。

以前、生きた枝に産卵するのを観察しました。その時の雌の行動はこうです。雌は雄がいないのを見計らってか、たまたま雄がその場を開けたのかはっきりしませんが、雄がテリトリーを張っていた場所にいきなり樹上から降りてきて、近くの葉に止まりました。しばらく静止していましたが流れに沿って低く飛んだと思ったら、今度は流れの上に張り出した植物の枝に止まり(高さは2mほど)産卵を始めました。産卵は10分以上続いたと思います。このトンボの産卵は水中にある朽木や根を対象にはせず、水面から離れた植物に産卵するようです。最近Noguchiphaea属は広く北部インドシナ半島に分布することがわかってきて、ラオスでもこの他、チャやラクサオからも得られています(既知の種とは異なるように見えます)。

Noguchiphaea is a typical dragonfly in this area. We knew very little about the ecology of this dragonfly. The egg-laying site is the dead branch or living branch of plant away from the water surface.

Akihiko Sasamoto, Naoto Yokoi, Vilaysak Souphanthong, Quoc Toan Phan & Ryo Futahashi  (2019) Discovery of a third species of the genus Noguchiphaea Asahina, 1976- Noguchiphaea laotica sp. n. from Laos (Odonata: Calopterygidae). International Journal of Odonatology 22(1): 59--71.  


     
       Noguchiphaea laotica male and female 2010.10.12 (photo by Yokoi )

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Oviposition 2019.10.16 (Photo by Miyahata)

Oviposition 2010.10.12(Photo by Yokoi)

Indocnemis orang male 2019. 10.15 (Photo by Miyahata)

ロンサンの宿舎は小高い丘の上にあって、非常に快適です。ここに来ると皆それまでの成果を整理したり、洗濯したりして思い思いの時間を過ごします。食事はロンサンの町のいつもの店で食べましたが、田舎らしい食べ物に出会う機会もありました。写真はミツバチの1種です。巣に岩塩を擦りつけて炭火で焼き、熱々を食べます。甘くクリーミーな味はちょっとやみつきになりそうでした。ただあまり食べると夜、寝られなくなるそうです。 
                                                                   
                  ロンサンの宿舎 Loncin's dormitory 

             ハチの子の焼き Charcoal-grilled beehive with salt 

ロンサン一帯の森林内を流れる渓流には、秋に出現するNoguchiphaea以外に春期にみられるような多種多様な種類は確認できませんでした。そこで、ついに最後の楽しみとしてとっておいたムモンギンヤンマの探索を行う羽目に早々と追い込まれてしまいました。以前このヤンマはロンサンに至る途中の岩肌を流れる渓流で見ていたので、まずそこへ行ってみました。この時期にはうじゃうじゃいるだろうと胸を膨らませていたのですが、意に反し一匹も飛んでいません。「Toshi-tyan」はこのトンボを捕りに来ているぐらいですから、内心穏やかではありません。早速、感を頼りに新たな生息地を探します。日本出発前にグーグルアースを見ていて気になった場所が近くにあったので、まずそこへ向かいました。着いてみるとその場所は思っていた以上に環境が良く、いかにもムモンギンヤンマが飛びそうな雰囲気がありました。渓流に降り立った直後、本種らしいトンボが川を横切っていきました。これは幸先ががいい。しかしそう思ったのは糠喜びでした。その後は1匹も見ることができませんでした。この日採集したのはToshi-tyanでした。とても新鮮な雄個体でした。時期が間違っていたのか、場所が見当違いなのか、とにかく確認できたのはこの1頭のみでした。
                     
              
           River flowing through the bedrock (Photo by Toshi-tyan )

Anax  immaculifrons 2020. 10.17 (Taken by Toshi-tyan)

Rhinagrion mima is very common in this river. (Photo by Miyahata)

ロンサンには1日のみ滞在し、早々にムモンギンヤンマの総本山ビエンチャンの生息地に向かいました2019年10月17日のことです。翌日から丸2日ビエンチャンの北30kmの山肌を流れる渓流で本種を探しました。写真がかつて多産した場所らしいのですが、当時と景観が違っていて、周辺の森が全て伐採され、バンガロー(といっても簡単な休憩所)が立ち並ぶ風景に、のっけから出鼻をくじかれる思いがしました。本当にここかい?早速沢に入って様子を伺います。確かにヤンマらしいのが時折飛んで来ますが良くわかりません。そのうちまた、「Toshi-tyan」が奇声をあげました。今度は雌だと。なぜ、またToshi-tyanなんでしょう。やはり意気込みがちがうのでしょうか。観察を続けるうちに、飛んでくるのは下流からで、同じ場所から川の外に出て、林の中に入っていく個体が多いことがわかりました。渓流に面した木々を見ていくと、オオヤマトンボの1種 Epophthalmia vittata  sundanaが止まっていました。あれあれ、もしかすると渓流を時々飛んでくるのはこれでは?そのうちまたToshi-tyanがムモンギンを採りました。しかし手にしているのはEpophthalmia vittata  sundanaそのものでした。どうやら、このトンボをムモンギンヤンマだと皆が信じ込んでいたようです。

結局、今回ムモンギンヤンマを最大の目標にラオスに来ましたが、この時期は本種はもちろん他のトンボ(渓流性)も全く見ることができず、期待はずれに終わってしまいました。ただ、ムモンギンヤンマについては採集した個体がいずれも新鮮であったことや、雌の腹部はほとんど空の状態で性成熟していなかったことからもっと遅い可能性があります。この辺が海外のトンボの難しさでしょうかね。

次回は気になる種についてアップしていきたいと思います。
                     
                生息地の景観 View in a habitat

Anax  immaculifrons female 2019.10.19 ( Taken by Toshi-tyan)

 
Epophthalmia vittata  sundana 2019.10.18 (Photo by Yokoi)

Other dragonflies,
Urothemis signata signata female 2019. 10. 18 (Photo by Miyahata)

 
Tithemis pallidinervis female. 2019.10. 19 (Photo by Miyahata)


Zygonyx iris malayana  2019.10.18 (Photo by Miyahata)

 
                           





















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