2020年11月11日水曜日

Davidius Mystery (3)

 続き

 Ris (1916)は、これまでSelysが記載してきたDavidius亜属の3種の雌雄に共通する特徴を、後翅の三角室に横脈があるとする定義には問題があり、確かにその傾向はあるが一貫性は認められないとした。さらに生殖器および尾部付属器の特徴を定義する必要性を説き、共通する特徴に上付属器の腹側に大きな突起があること、生殖後鈎が爪のように曲がって基部が板状に広がるとしている。

Fraser (1936) はDavidius属が後翅の三角室に1本の横脈を持ち、さらに後翅脈CuiiとIAが後縁に近づくほど2者の間隔は広がる特徴をあげ、これらを識別点としている。なお、この論文で彼はRisが記載したDavidius cuniclus(ダビトサナエのシノニム)はD. aterそのものではないかと述べており、朝比奈博士はこの記述もあって、aterを調べたのかも知れない。軍医であったFraserの研究がトンボ界に与えた影響は計り知れない。

それで何がどーなるのか  

さて、Selys (1878)によってDavidius属が設立された。この時、この属に含まれる種はD. zallorensis、nanus、bicornutus(この種は2019年にKarubeとKatataniによってDubitogomphus属に移された)、davidiおよびater、の5種であった。これらの分布はチベット、中国西部、北部さらに日本(nanusとater) で、全てが前翅の三角室に横脈が無く、後翅三角室に1本の横脈を持つという基準で区別された。この属のタイプはdavidiで雌個体である。このタイプの形態が、ダビトサナエnaunsとほぼ変わらない形態を持つものと想定するとするならば、この属の形態的な特徴は前後翅の結節前横脈と結節後横脈数9~13本ぐらいで、後翅の三角室に1本の横脈を持ち(持つことが多い)、さらに翅脈CuiiとIAが後縁に近づくほど2者の間隔は広がる。また雄の生殖後鈎の爪が大きくカーブし長く、大きく突出する。さらに生殖後鈎自体の幅はさほど広くないことなどが挙げられる。尾部付属器は黒色が多い。また、雄の第7腹節の後縁腹部側に微細な歯が密生する突出部がある。この他にネパールと北インドからのaberrans、delineatusもこれらの特徴を有する。そこでとりあえず、これらの種群をひとくくりに原亜種グループとしてまとめることにする。

その後、1904年にDavidius fruhstorferiがMartinによってベトナム北部から記載された。この種は原亜種グループの種群とかなり異なる形質を有する種である。にもかかわらず、MartinはこれをDavidius 属とした。この理由は、たぶんMartinはSelysと親交が深かったため、Selysに従った分類基準でfruhstorferiをDavidius属に処置したものと思われる。このトンボの特徴は、より小型。スリムで華奢な形態をしており、雄は尾部付属器が白~暗褐色、生殖後鈎は独特な形状でブーツのような形でかかとの部分に小さく鋭い突起を持つなどnanus などの原亜種グループとはかなり異なる。この様な特徴を持つ種は中国南部産の trox、delineatus、squarrosus および zhoui等が挙げられ、さらにベトナムからの monastyrskiiなど1904年以降に中国南部およびインドシナから記録された全ての種の新種記載がfruhstorferiを比較対象としている。マルタンのfruhstorferiの記載が、その後のDavidius 属の新種記載に重要な影響を及ぼしていることが分かる。これらを一応 Davidius属とし、その種群を仮にfruhstorferi グループとして扱えば、このグループの生息地はインドシナ~中国南部のおおむね北緯26度以南に分布する。                  

                       同じDavidius属のトンボ? 上がダビトサナエ Davidius nanus(須賀川市岩瀬産)、
                   下が Davidius fruhstorferi (Laos),
                       Do the two dragonflies belong to the same genus? Above: D. nanus Below:       
                       D. fruhstorferi 

ダビドサナエ(上)とfruhstorferi(下)生殖後鈎
                                  Posterior hamulus comparison, above: D. nanus, below: D. fruhstorferi

結論

ラオスのDavidius fruhstorferi の産卵様式が日本国内のダビドサナエとは全く異なることから、両地域に生息する種は同じDavidius属なのかについて調べてみたところ、既知のDavidius属は2つのグループに分けられ、北緯26度あたりを境に北の種群と南の種群があることが分かりました。両者の形態については大きな差異があって、東南アジア~中国南部に分布する種群 D. fruhstorferi グループは今後の研究次第ではDvidius属から別れて、別属(新設)になるんじゃないかな。と思うのですが。どうでしょう?だれかやって~!

Since the oviposition style of Davidius fruhstorferi in Laos is completely different from that of Davidius nanus in Japan. Therefore, I investigated the morphological characteristics of all species of the genus Davidius. As a result, it was found that the genus Davidius can be divided into two species groups at latitude 26 degrees north. The species of South China and Indochina may be divided into new genera. 


<おわり>







ラオスで観察した

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