小さくて愛らしいNannophyopsis 属はわずか2種から成る小さな属で、中国や台湾に産するN.clara の他に N. chalcosoma が マレーシアとインドネシアから記録されています。chalcosomaは稀種らしく、Orr著「A Guide to the Dragonflies of Borneo」に雄が図示されていますが、Web検索で見ても、なかなかその姿がでてきません。わずかな写真からはclaraと見分けが付かないほどよく似たトンボだという事が分かります。
さてNannophyopsis claraを最近までラオスで見ることはできませんでした。以前、南ラオスで羽化後間もないBrachydiplax farinosa (羽化間もない時はダークグリーンで金属光沢の体色)をてっきりclaraだと、小躍りしたのですが、翌日見たらBrachydiplax になっていて、がっかりしたことがありました。そんな私にとって、いわくつきの本種の発見は思わぬ経緯と場所からでした。
Habitat of Platycnemis phasmovolans in Lak Sao Platycnemis phasmovolansCopulation. 6/5/2016.13:20 LakSao
2016年4月下旬、いつもの友人たちと一緒にLak Saoの渓流を訪れた時のことでした。この河川流域では珍種のグンバイトンボ Platycnemis phasmovolans さらに多くのルリモントンボ類が見られ、また、サナエやヤマトンボ類も多いなど好採集・観察地でした。上流には何個か魚の養殖用の池が掘られていて、一通りの止水生トンボも見られました。しかし私はどうしても渓流性のトンボを第一目標にする傾向があって、この日も、黄昏時のヤンマが気になって池のことなど頭にありませんでした。陽が落ちて、上流に行っていたMiyahataさんが戻って来て、私にボソッと、「クララ、おったよ。」と。「うそ~!どこに」、「たぶんそうだよ」と撮ったばかりの写真を見せてくれました。少し遠めでそれらしくは見えましたが。もう少し近いと。1頭しかいなかったという話で、すぐに、また皆で沢を登って、池に急行しました。しかし、完全に陽は落ちて、池にはそれらしいトンボは確認できませんでした。
翌日、早々に朝食をとって出発。今度は最初から池目的なので、渓流のかなり上流部の道路に車を止めて沢沿いに入ることにしました。到着早々、黒い小さなトンボがアブのように目まぐるしく飛び交い、瞬時に初めて見るのにクララだと分かりました。すごい数です。こんなにいて、なぜ今まで気が付かなかったのか不思議でなりません。
この池には Pseudagrion australasiae, Ceriagrion chaoi, Ictinogomphus decoratus そして Epophthalmia elegans ? などを始め、多くのトンボ科のトンボが多数飛び交い、claraは小さな体のくせに俊敏に飛び回り、他種を圧倒して池に突き出した枝や葉の上に独特の体形で止まって、縄張りを作ります。トンボの数があまりにも多いため、ひっきりなしに飛び立っては邪魔者を追い立てます。そうした中に雌がいつの間にか飛来して、岸部の水草が繁茂した場所に産卵します。雄はすかさず反応して、すぐ雌をキャッチして岸部の草の上に止まって交尾します。交尾時間は1分以内のような気がします。その後雌は決まって、単独で短いホバリングを交えて産卵します。産卵は何回か見たのですがいずれも張り出した灌木の下に潜り込まれて撮影はできませんでした。雄の警護飛翔はなかったように思います。claraは午前中に多く、午後は極端に数が減る傾向がありました。写真のようになんの変哲もない、どこにでもあるような池なのですが、今のところここでしか本種を確認していません。
A male flying for vigilance 6/5/2016, Lak Sao (Photo by Toshi-tyan)
A male perching on the tip of withered stem
A female which came flying for laying eggs
Copulation of Nannophyopsis clara
Nannophyopsis clara was confirmed as the first record from Laos in the fishponds in the eastern mountains of Lak Sao in central Laos. The population was large and active mating behavior was observed. The behavior of N. clara from Laos was not much different from what Yeh, W.-C et al. (1995) reported in Taiwan. This adorable dragonfly was thought to be widely distributed in Annamite Range.
Reference
and morphological description of the ultimate instar larva(Odonata: Libellulidae).
Tombo 38:24-26.
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