karubei は今回もダメで、私たちは失意と共にラクサオを後にしました。この地にまた来ることはできるだろうか、私たちも相当ガタがきてますから。当初の計画は白紙に戻って、今回も Phonsaban 方面に転戦することし、 Phonsaban 北部でオニヤンマを狙うことになりました。その後はPhonsaban から南に下って、Tatom の手前からSaisonbun 県の Cha を経由してLonsan さらに Thabok、Vientiane という行程に変更しました。
オニヤンマ Anotogaster gigantica
以前本種をPhu san 山麓の渓流で確認していますが、はっきりした繁殖地はわかっていませんでしたので、なんとか繁殖地を見つけたいと思っていました。今回も以前と同じく渓流に沿った林道上をオニヤンマが次々に飛んで来ますが、一過性で別に繁殖地があるものと周辺を探したところ、典型的なオニヤンマのポイントを発見しました(写真下)。♂は他個体とのバトルを繰り広げながら細流上を行きつ戻りつつパトロール飛翔をしていました。産卵は1回のみでしたが、割に広い砂地の流れの上を低く飛び回りながら2,3回産卵管を突き刺す♀の産卵行動を観察できました。ラオス産も日本のオニヤンマと生態は全く同じ様に思えました。
ここまでトシちゃんは、 karubei はおろか、ほとんど成果のない今回の採集行で、Phu Sanでオニヤンマが採れなかったら玉砕、という悲壮感を漂よわせていました。そんなわけで♀が飛来した時、皆、自然とその場を譲り、ネットがぶっ壊れたかと思われるほどのものすごい水しぶきと共に♀をゲットし、そして満面の笑みをたたえたトシちゃんの笑顔に、誰しもが思わず拍手を送らずにはいられませんでした。ああ良かった。
オオギンヤンマ Anax guttatus
ラオスには5種類のギンヤンマが記録されていますが、最もポピュラーなのが本種です。ただ、飛んでいる個体は Anax indicus やリュウキュウギンヤンマ Anax panybeus との識別が難しく、捕えてみないと確証は得られません。ラオス全域に見られますが、あまり標高が高い地域には多くないように思います。
Cephalaeschna sp.
このヤンマはラオスでは北部の山岳地帯でしか記録がありません。良く似たPeriaeschna 属は分布が広いのですが、Cephalaeschna 属のヤンマはラオスではなかなか得難いトンボと言えるでしょう。
サイソンブン県の県都チャ(Cha) は10年前の物々しい緊張状態下にあった時とは打って変わり、完全に平和な町となって(多分)、現在では絶対解放されないと思われたビア山も直下まで車で上がれ、山頂は観光客であふれかえっている状況です。恐らく途中の渓流には変わったトンボがいるはずです。
Chaの町から数キロ西に離れた場所に小さな細流(標高 1300m) があって、10年以上前にここでCephalaeschna 属のヤンマを採集したことがありました。その後、細流周辺の森林が皆伐されたところまでは確認しているのですが、はたして生息しているのか気になっていました。今回10年ぶりに訪れてみました。昔の面影は全くなく、鬱蒼としていた沢も遮る樹木もなく荒れ果てていました。早速、車道から流れにおりてみると、何とCephalaeschnaが2頭仲良く並んでで流れの上をホバリングしているではありませんか!こんなことあるの?あらためて網を構えて、良く見るとそれらはクモの巣に引っかかっていたものだという事が分かりました。2頭とも♀で、まだクモも来ていない直後の個体であることが分かりました。こんな事もあるのですね。その後、環境は全く良くないのですが、Cephalaeschnaが次々に飛来します。カトリヤンマのような飛び方で器用に密生した灌木類をぬって細流の上を飛びます。
Amphithemis kerri と Sympetrum hypomelas
Cephalaeschna が飛ぶ細流の上流は背丈ほどもあるイネ科植物が密生する広い湿地になっています。湿地のなかの開けた場所や湿地周辺部に多数の Sympetrum hypomelas と Amphithemis kerri が見られました。共に深紅の色合いは緑の草ぐさの背景に映え、その美しさに心が洗われる思いがしました。ラオスのSympetrum 属は本種の他に、南部のボロベン高原で羽化している種類を多数観察しています。まだ秋に行ったことのない北部の中国国境地域にはまだ見ぬアカトンボの仲間が生息しているのでしょうね。
Amphithemis kerri はラオス北部の山間部の湿地や流れに見られますが、分布はむしろ局地的です。この時期はやや若い個体が多いようです。標高の低い中部、南部地域の種はAmphithemis curvistyla ですが、酷似していて検討の必要がありそうです。両種とも交尾や産卵は見たことがありません。いつかじっくり観察できたらと思います。
Tholymis tillarga と Tramea transmarina
Cha から宿泊地の Lonsan までは約2時間です。ここでは数々の珍しいトンボに出会え、思い出深いお気に入りの場所だったのですが、昨年広範囲に山火事が発生して、それまで通い慣れた渓流でも周囲の森林が全て消失してしまいました。さすがにそうした環境にはほとんどトンボの姿は無く、1年後の現在も一見、緑が回復したように見えましたが、渓流性のトンボは全く見られませんでした。
ゲストハウスの前に小さな池があって、早朝に宮畑さんが普通種でしたが、Tholymis tillarga と Tramea transmarina の意外に撮れない産卵をバッチリ撮影しました。また、帰路のLonsan から少し下ったところにある川沿いの池で珍しく Nannophyopsis clara を見つけ、じっくりこの愛らしいトンボを観察して今回の旅を締めくくりました。